変わることのない世界で

小さな物語の断片
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対価
傷つく事も痛みを感じる事も厭わない。傷つけずに済むなら、守ることが出来るのならどんな傷も痛みも受け入れよう。これは優しさじゃなくエゴだ、それは唯一私の真っ当な動力となることを私は、私だけが知っている。その為に負う傷も痛みも、傷つけ、守れなかった時に負うものに比べれば全然大したことないのだから。だから私は厭わない。
傷つけたくない、守りたい。――それが出来なかったことで負う傷も痛みも私には辛すぎるから。

「リィ、何で」
「したかったからだけど?」

最前線で戦い守る為の精鋭部隊に自ら志願し、それに受かった。貼りだされた合格者一覧にラスは悲痛な顔をして私を見た。
他ならない私が自ら望んだことだから、自らの身を挺して守れるなら本望だ。どれほどの傷を負おうと、痛みを伴おうと、女だから、そんな理由で馬鹿にさせたりはしない。事実、私に勝てる男など残念なことに片手いるかいないかぐらいなことは知っている。犠牲が必要だと言うなら進んでなろうじゃないか、ただその決意をしただけだ。

「……何でそんな自ら死地に近づこうとするんだよ」
「ラスにはそう見えるかもね。でも別に死地に近づこうとしてるわけじゃないよ。――守るためだよ。その為に生きて戻る。ちゃんとこうして戻って来てるでしょ?」
「俺には守らせてくれねえの?」
「守られてるだけなんてごめんだよ」
「リィ」
「ごめん、そろそろ行かなきゃ。招集かかってるんだ」

未だ何か言いたげなラスを振り切ったのは逃げだと分かってる、招集がかかってるのは事実だが時間的にまだ余裕があるのだ。私の弱さが顕著に現れるとしたらこういう場面でであることは知っている。きっと隊長も。
戦う理由、その点においては私と隊長はまったくもって同じだから。

「リィ!」
「……じゃあ、なんでラスは志願したの?」

……そしてラスも。
戦う理由が同じだから今ここにいる。

「お互い、したいことをすればいい。違う?」

ラスが言い返せないような言葉をわざと選らんで今度こそ踵を返した。
招集がかかってるのはラスも同じなのに、あえてバレバレの嘘を吐いたのは何故か。
その答えと向き合えるようになったとき、きっともっと強くなれてると信じて。

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絆の代償
「ざけんな、死ね」
「あんたがふざけてるんでしょ。さっさと知名から手を引け」

目の前で繰り広げられる低次元な――愛されてるなぁと思うが少々複雑な気分になる高と紗江が繰り広げる言い合いに私はどうすべきかとこっそり溜め息を吐いた。彼氏と親友が繰り広げる言い合いはエスカレートして行く。慣れてしまったといえばそうなのだが、ここ最近は酷い。原因が私にあることは分かっているのだが、ヒートする理由をしるのは私と紗江だけで、巻き込まれてる高は知らないだろう。

「知名は俺のだっつーの」
「あんた何様?あたしのに決まってるでしょ」
「黙れレズ」
「あたしはバイだ」

……どうなのよ、その切り返し。案の定高は黙っちゃうし。
私はどっちの味方も出来ないからもどかしい。どっちが大事なのか聞かれても正直返答に困るし、だって高は高だし、紗江は紗江だから。あ、でも百合はやだなぁ。

「知名、あたしあんたにそう言う気は起こさないから」
「あ、そう?なら安心した」

いや、しかしながらだから自分を選べ、と言ってるのか?……そこまで回らないか。
どっちも好きだし、大事なのよ?
だからこそ迷うってのもあるわけで、別にどっちについた方が面白くなるかなんて考えてなかったよ、……少し前までは、ね。

「紗江、大好き」
「あたしもー!」
「ちょっと、知名!?」

別にからかってるわけじゃないのよ?うん、多分、きっと、恐らく。
これも一種の愛だと思ってね。
高も紗江も大好きだから。
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I hope beautiful good-bye.
「今日は“サヨナラ”を言いにきたの」

声は震えていませんか、体は固まっていませんか、顔は歪んでいませんか。
自分で決めたことなのに酷く重い、喉が渇く。目の前にいる相手は案の定目を見開いてこちらを凝視している。それもそうだ、あまりにも唐突すぎるだろう。そんな様子の片鱗も見せなかったのだから当然の反応なのかもしれない。これで無反応でも逆に寂しいものがある。

「ハル……?」
「カイ、別れよう」

より一層見開かれる目。今にも零れ落ちそうなくらい。けれど、私は真剣そのもので取り消す気などさらさない。理由?そんなのは分かりきっている。
怖いんだ、ただ単に。
嫌いになんてなれるはずもなく、想いが冷めるなんてこともない。
だとしたら理由なんて、答えなんてただ一つ。
怖いんだ、これ以上踏み込まれるのが、弱さを曝け出すのが。そして、嫌われるのが。

「何で」
「ごめん、でも今ならまだ戻れるから」

泣かないように、決して泣かないように拳を握り締める。駄目なんだ、これ以上駄目にするわけには、振り回すわけにはいかない。
カイの個性だ、と受け入れ切れなかった私の負けなのだ。
ねぇ、好きだよ。
だから、綺麗なうちに別れようと思ったんだ。
君に呆れられる、嫌われるその前に。
もう押し殺すのは限界だった。あふれ出してしまう。

「ごめんね」
「ハル……」

気づいてよ、君は何も聞いてはくれないから。だから私も言わないし、言えない。
傲慢だって分かってる、けど。病んでる人間を君は嫌いだろう、私はカイが思っている以上に病んでいて、それを知られたくない、思い出が綺麗なうちにサヨナラ”しよう。

「……カイ、今までありがとう。――バイバイ」

堪えた涙が零れ落ちるその前に、頷いて。
そう願いながら私はじっとその目を見つめた。
記憶に刻むように。
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譲れない
余裕なんてかましてられない、平然となどしていられない。絶対に譲れなくて、渡したくないから。だからいっそ惨めでも、カッコ悪くてもいい。足掻いて、縋って、引き止めてみせる。
手段なんて選んでられない。
そう思った、そう思ってた。勿論、自分の意思が確かにあること、或いは相手の気持ちが冷めてないこと前提で。傷つきたくなくて、でも傷ついても良いから手放したくなくて。それはエゴなのだろう、間違いなく。望むことと現実が矛盾していて笑いたくなる。
それでも。

「……暫く距離を置こうと思うんだ」
「また、何で?」
「私の我儘で振り回したくないから、迷惑かけたくないから。これ以上甘えたら駄目になりそうで、もう弱くなりたくなくて。優しさにつけこんでるようで。些細なことで不安になるのも、寂しくなるのも、それを耐えられなくなるのも嫌だから」
「それでアイツは納得するの?」
「させるよ。アイツは優しいからきっと“そんなことない”って言うに決まってるから。それか、悟らせない」
「それで、あんたは大丈夫なの?」
「大丈夫にならなきゃ」

説得力など皆無だろう自分の言葉に、それでも納得させなければいけないから。弱くなるのはごめんだ。麻にも亜紀にもそして、悠にも嫌われたくはないから。強くならなきゃ、そう焦れば焦るほど。だから距離を置こうとしたのだ。
最近の自分はこればかりだな、と失笑を禁じえないがこんなこと麻じゃなきゃ言えるわけがない。亜紀でさえ言い辛いのに、ましてや本人になんて。言ったところで困らせるのは分かってるのに。困らせたいわけじゃない、振り回したいわけじゃない。
ないない尽くしだな、ほんと。

「流石に気づくんじゃない?」
「バイトで忙しい、って言えば大丈夫」
「……見てたら?」
「見てるとは思わないよ。見てたらそれこそはっきりするでしょ」

私はアイツが思ってるほど出来た人間じゃない。我儘で貪欲で脆弱で矮小でどうしようもない人間だ。だから。

「別れたいとは思わないよ。別れた方がいいのかな、って思うことがなかったとは言わないけど」
「何で」
「執着するのが、固執するのが怖いから、かな。頼りっきりになるのが怖いから」
「玲」
「分かってるよ。きちんと考えて、覚悟が決まったら話して。それからだよ。十分落ち着いてるから」

嫌いじゃない。寧ろ好きだからこそ怖い。
でもこれが私だから、それだけは譲れない。私が私であることは譲れない。
甘えたくない、これは私の意志だ。決して譲れない、私の。流されて失う気はさらさらない。

刺すような寒さの中、白い息を吐いていっそ吐息と共にこの弱さも消えてしまえばいい、そう思った。

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あるべき場所へ
そもそもこの関係が、今までの関係がおかしかったのだと思い知らされた。本来ならばいがみ合い対立しぶつかり合うはずなのだ、リュウヒとトーマは。
談笑し合い、食事を共にし、それ自体がおかしい、“異常”なのだと忘れていた。前魔王の時からおかしかったのだと気づくべきだったのだ。

「本来ならばどちらかが滅びるまで続けなければならない。そうだろう?」
「……それは否定しねぇよ。けど、今更。それに則る必要あるのかよ」
「さあな。けれどそうしなければ納得しない者も決して少なくない。分かってるはずだ。暴動が起きたとして、それを私一人ですべて抑え切れるとも限らない」

面倒だ、と自嘲気味に漏らしたリュウヒにトーマは悲痛な顔をした。どうにかならないものか、と初めて自身の立場を呪った。

「リュウヒ。俺は」
「……それ以上は言うな。私は魔王でお前は勇者。それ以外に説明は無用だ」

その深紅の瞳から一切の感情を取り除き、押し殺しリュウヒはトーマを見据えた。時に宿命とは歴史とは残酷だと思わずにはいられない、しかしこの時がくることをどこかで確信していた。それは魔王になった時から、そして、トーマに会ってより強く。
ふざけた結末は前代だけで十分だ、とリュウヒはトーマに向けて術を放った。それは遠慮なく、迷いを押し殺した。

「リュウヒ!」
「……さあ、勇者。私を殺す気で来い。でなければお前が死ぬぞ」

容赦なく放たれる術はまるで苛立ちをぶつけるかのようにトーマへと向かっていく。愛情や慈しみなど魔王には必要ない、ましてやそれが魔族以外に向けられるものなら尚のこと。決着はつけなければいけない。どんな形になろうとも。

「方法が他にないわけじゃねぇだろ!?」
「……私は魔王だ。余計な感情は要らぬ、押し殺して排除すべきなんだ。――分かれ」

無茶苦茶で横暴なことを言っているのはリュウヒ自身分かっていた。それでもそう言葉にせずにいられなかったのはリュウヒの性格上、自分よりもトーマの立場を思ってのことだろう。
まるで悲劇のヒロインじゃねぇか、と内心毒づきながら必死で方法を探していた。どうにかして、なんとかならないものかと。

「俺はお前と殺り合う気はない」
「私は、どうだろうな?」

シニカルな笑みを浮かべるリュウヒにトーマは拳を握った。そう簡単に策が浮かぶわけでもないがこの状況を受け入れるわけには、ましてや周りの思惑通りに期待通りに動くわけにはいかなかった。
時は止まってはくれず、風が悲しげにないた。


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拍手ログ

目が覚めたら私は空を飛んでいた。
一瞬、まだ寝てるのかと思ったけどそうではないらしい。誰かに抱きかかえられているのが分かり、混乱した頭を覚まそうとしていると頭上から声がした。

「あ、起きたみたいだな」
「ぎゃぁっ!」
「色気のねぇ叫び声だなぁー」

くくっ、と意地の悪い笑い声と共に私は下ろされた。よく見て見れば既にそこにはジョンとマイケルが寝ていた。
状況が飲み込めずにいると目の前の斬新なけれどどこかで見覚えのある恰好をした少年がにっこりと笑って一礼した。

「ようこそ、ネバーランドへ!俺のことはピーターとでも呼んでくれ」
「ピーターパンの癖によく言うわ。じきに覚めるから。あたしはティンカー・ベル。そこのお気楽道楽女好きはほっといていいわよ」

どこかで聞いたことのある、寧ろ有名すぎる名前と目の前の人物のキャラとのギャップについていけないでいると愚弟二人が目を覚ました。
そして余計な一言によって、ジョンは再度眠りについた。

「ここどこ?」
「うわっ、何このちんまいの

鈍い音が響き、ジョンが再度横になるのを見届けて、私はティンカー・ベルと名乗った小さな女の子に聞いた。

「マジ?」
「マジ」

マイケルはと言うと、今さっき起きたことにがたがたと震え口を挟もうとしなかった。



「夢の国?にしてはピーターパンとかに可愛げがないんだけど」
「あのね、僕、いい?子どもなのは外見だけで、それで数十年生きてたらいくらなんでも成長するわよ」
「ってことは実年齢は……」
マイケル?

自己紹介を済ませ、ここの説明を聞いていると不意にドーンと言う音がした。しかしながら、マイケルはその音を気にする余裕など何故かないようで。
続けて二発目が鳴った。展開的にこの音の主が誰なのかは想像するまでも無いのだが。その音で漸く起きたジョンは何だ、とばかりにあたりをきょろきょろと見回している。

「丁度いい」
「そうね」

ニヤリ、と本来なら悪役が浮かべる笑みを浮かべるピーターとティンクにご愁傷様、と思ったが後々人質に取られるかもしれないことを思えばいい気味だ。
よからぬことを考えてるだろう二人に、もとより悪戯大好きなジョンとマイケルも瞳を輝かせ始めた。
まったく、と思いながらかく言う私もわくわくしてきて事の成り行きを見守った。
少しして聞こえてきた声に、思わず口角が上がる。

「出て来い、ピーターパン!」



「出て来い……ふべしっ!」
「何、俺に用ー?もしかして寂しかったとか?」
「馬鹿言ってないで、降りろ!」

華麗に飛んだピーターが降り立った先はあのフック船長の上だった。
想像ではどんな親父かとはらはらしていたが、意外や意外、黒髪長髪の美男子だった。
その傍らで、白髪のこれまた甘いマスクの青年――恐らくスミーがティンクを口説こうとして思い切り顔に蹴りを食らっていた。ピーターもピーターで茶髪の美形だし、ティンクはちょっときつめの美人だしで目の保養だ。このままで行くとインディアンとかタイガーリリーとか物凄く期待できるのではないだろうか?

「あれ、見ない顔だね。ピーターなんて辞めといた方がいいよ?」
「スミー、何言ってやがる。俺ほどいい男もいねぇだろ」

あれ、ネバーランドで両者の確執ってこんな和やかで穏やかなものだったっけ?何か違うんじゃない?
そんな疑問も虚しく、二人は親しげに会話を交わす。その下でフックは相変わらず苦しそうにしている。このままじゃ死ぬんじゃない?酸欠で。流石に死体は見たくない。

「ピーター、そろそろ死ぬんじゃない?」
「あ、いけね」

すくっと起き上がりフックの上からどいたピーターに溜め息を吐いて顔を覗けば、その顔は死んでいた。

「フック、だらしねぇなぁ」
「てめ……ッ」

仲が良さそうな二人に三人で顔を合わせ、こっそりと笑った。

踏み潰されていたフックはすくっと立ち上がると、スミーに思い切り蹴りを食らわした。
スミーは突然の攻撃になす術もなく崩れ落ちた。

「〜〜っ、いってぇ……。船長、ひでぇ」
「うるせぇ、黙れ。ピーターパン、悠長に構えてて良いのか?」

ふっ、とさっきまでのヘタレっぷりはどこへやら。唖然としている私たちにそっとティンクが囁いた。いや、そもそもティンカーベルって喋れたっけ?今更だけど。

「ほっときなさい」

確かに、それが有効そうだ。しかし、黒笑いを浮かべるフックの隠しだまが気になった。

「……もうすぐタイガーリリーが」

すべて言い終わる前にピーターは高く飛んだ。ティンクの話によるとピーターはタイガーリリーに熱烈にアタックされ続けてるらしい。人事のようにいってるが、そのティンクの顔は実に面白くなさそうだ。
けれど、私はあえて聞かなかった。聞いたらきっと怒られるに違いない。

「……なぁ、マイケル。俺たちどうなるんだろうな」
「そんなの僕に聞かないでよ」

後ろでひそひそと話す弟たちには申し訳ないが何か面白いことが起きそうな気がして、私はこのわくわくを止められそうにはない。

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言葉の音
口に出す、言葉にする、ただそれだけのこと、たったそれだけのことなのにただそれだけのことをするのがどうしてこうも難しいのだろう。一つのことを何とか口に出来ても、もう一つのことは出来ない。一つが出来たらもう一つは出来なくなる。
どうしてこうも不器用なのだろう、と自分に苦笑する。
片想いだろうが両想いだろうが不安になるときは不安になる。

「だったら言えばいいじゃない」
「……人の話聞いてた?」

さらりと言ってのけた瑞穂に私は呆れた声を出してしまった。それが出来ないから困ってる、それが素直に出来れば苦労しないと今まで散々言ってきたのに、本当は流してただけなんじゃないだろうかと脱力してしまう。
けれど、瑞穂に限ってそんなことはありえないと知っているからこそ、何を考えているのだと怒鳴りたいのも事実だ。それが出来たら苦労しないというのに。

「いい機会だと思うけど?言わずに後悔するぐらいなら言って後悔する方がいいでしょ」
「まあ、そうなんだけどさ」

だからと言ってそうすぐに言葉に出来るわけではなく、それが私にとってどんなに困難なことか瑞穂が知らないはずはない。口に出すことは予想外に難しく、寸でのところで飲み込んでしまう。悪い癖だとは思うけど、どうしても言いよどんでしまう。言ってはいけないような気がして、結局音にならないまま封じられてしまうのだ。
我儘だとか、理不尽な要求とかを口にするのは物凄く憚られて。

「偶には言うべきだよ」
「……努力はしてみる」
「結果を出せ」

にっこりと極上のスマイルで無理難題――少なくとも私にとっては――をふっかける瑞穂に渋々頷いて天を仰いだ。
まるっきり他人事で風がさざめいた。

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探し続ける
嫌な夢で目が覚めた。はっと気づけば普段の教室で、前では教授が淡々と喋り続けていた。時計を見ればまだ十分ほどしか経っていない。……どれだけ困憊してると言うのか。
隣では治樹が退屈そうに欠伸を噛み殺している。じゅんの姿は見えない。
進む時間、部屋に一人伏して寝ている私。チャイムが鳴り響いても起きれない私を皆が素通りしていく。――じゅんも。
起きれない、声が出ない。

「……下らない」

大したこともなかったくせに何を疲れてると言うのか。脆弱にもほどがある。
私が一人溜め息を吐くとそれに気づいたのか治樹が突然頭を撫でて来た。苦笑してるところをみるともしかしたら筒抜けなのかもしれない。

「どうした?じゅんなら来てないけど」
「……別に。今猛烈に叫びたいだけ」
「叫べば?みんなの注目独り占めできるよ?」
「治樹って可愛い顔してドSだよね」

ぽつりと小さな声で漏らしたはずなのにしっかりと治樹の耳に届いてたらしく笑顔で「殴られたい?」と言われた。静まり返った教室の中で叫ぶほど私だって酔狂じゃない。あえて言うならこのもやもやを吹き飛ばしたいだけなのだ。つまるところ結構なフラストレーションが溜まってるということだ、この短期間で。
本当にありえない。
今顔を合わせたら言ってはいけないことを口走りそうで怖い、杞憂だとしても警戒するに越したことはない。
治樹はそれでも優しく頭を撫でてくれて縋りそうになる自分を何とか抑えた。

「真菜、うじうじ悩むぐらいなら動いた方が真菜らしいし真菜に合ってると思うけど」
「……うん」

胸に秘めた寂しさを押し殺して、私は治樹に凭れ掛かると落ちそうになる涙を隠す為に寝たフリをした。

そうして下りてくる夢に、そっと息を潜める。
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拍手ログ
どうしてここにいるんだ、とか。何してるんだとか。在り来たりな台詞しか出てきそうになくて、私は寸でのところで言葉を飲み込んだ。
玄関の前で蹲ってる後輩にやっとのことでかけられた言葉は

「寒くないの?」

だった。幾ら暖冬とは言え、まだ夜は冷える。
声に反応したのか、後輩君である村中は勢いよくこちらを見た。元気のない、どこかうつろな目をして私を見た。

「……先輩。俺のこと、置いていかないで下さいよ」
「どうしたの」

弱弱しく呟くと、村中はすくっと立ち上がり私の肩に頭を乗せた。その姿があまりにも弱弱しくて、私はその頭をあやすように撫でた。
いきなりどうしたというのだろう。理由も聞けず、ただ優しくその背中を撫ぜる。
と、強く抱きしめられた。
私は抵抗もせずされるがままにされた。あんな姿を見といて、押し返すなんて出来なかった。

「置いてかないよ」

諭すように言うと村中は縋るような目で見てきた。私に一体何を望むというのか。それは分からなかったけれど、私はもう一度言った。

「置いて、いかないよ」

君がソレを望むなら。
もう一度、そっとあやすようにその背中を撫でた。


***********************************************


君が漂うというのなら
僕は君の隣にいよう
同じ青を見て
共に漂おう
たとえ今までしてきたことが無駄に思えても
それは決して無駄ではない
たとえ道に迷ったとしても
その時間だって無駄だじゃない
些細なことに気づかされる
無駄なものなど何もないと
信じたい
たとえそれが綺麗事でも
そうだろう?


*****************************************************


会いたい そう願う心は強いのに
文字にすれば薄れ行く
声にするほどの勇気はなく
ただただ想いが強まるだけ
押せないボタン
触れた指を離しては
流した涙に気づかぬフリ
寂しさを紛らわし続け
不安を押し殺し続け
軋む心 叫ぶ魂
その願いは届くのだろうか


*********************************************


言えるはずのない不安をずっと押し殺して、見ないフリをしてきた。
それもそろそろ限界で、思っていた以上に堪えていたらしい。とうとう私は堰切ったようにぶちまけてしまった。途中で止められるはずもなく。

「いつだって不安だよ。気にしてないと思ってた?平気だって思ってた?――そんなわけない」

私だってヤキモチぐらい妬く。気づいてないだけで。
ねぇ、そんな必要ないぐらい、そんな不安吹き飛ばすぐらい愛してよ。

そんな思いを込めて、私は戸惑っているのを引き寄せキスをした。


*******************************************************


「……責任者呼んで来い。誰だ、こんな写真撮ったの!!」

そう怒鳴る久弥に部長は困ったように、けれど実は全く持って困ってないのを隠すように犯人である二年生を突き出した。
久弥のクラスメイトで風景写真専門の瀧野だ。げっ、と嫌そうに顔を歪めながら久弥に笑いかける。と、見事な右ストレートをお見舞いされた。
写真には扉の隙間から見える、着替えの最中の写真。

「だって、綺麗だったから仕方ねぇじゃん!」
「仕方なくあるか!よし、そこへ直れ。今すぐそのおかしい頭治してあげる」
「ちょ、手加減して!」
「無理」

その直後、鈍い音が部屋に響きご愁傷様、と瀧野に合唱して俺らはいつもの業務に戻った。

数日間、久弥に平謝りしてる瀧野の姿が見えたが、許してもらえたのかどうかは定かではない。

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無意識下の傷
傷つけたいわけじゃなかった、別に深い意味なんてなかった。言ってしまえばただの『暇つぶし』『娯楽』。それが誰かを傷つけるだなんて思ってもみなかったんだ。
嫌な気持ちにさせた。“最悪”のパターンばかりが脳裏を過ぎるなんて本当に我ながら変なところで自信喪失気味だといえよう。
自分が傷つくのは構わない、自分ならいくら傷ついても、傷つけられても構わなかった。自分の傷なら自分で抱え込んで自分だけが辛い思いをすればいい、誰かが傷ついて悲しい思いをするより余程マシだ。今までだって、そうして来た。辛い思いをするのは一人で十分だから、私だけなら誰にも迷惑をかけずに済む。誰も、傷つかずに済む。
すべてを溜め込んで、抱え込んで。そうすることで強がって、粋がって、そうする必要性を見出せたから。

「偉そうなことばっか言って、自分はそれじゃ救われないな」
「煩い、分かってるよ」
「分かってる?は、よく言う。受け入れ切れてないくせに」
「黙って」
「アタシはあんたで、あんたはアタシだ。全部分かる」

鏡の向こう側にいるような彼女に私は軽く舌打ちをした。彼女の言葉は間違ってはいない。表裏一体、まるで違う人生を歩いてきただろうはずなのに考えることも感じることも全くといっていいほど同じ。笑ってしまうほどにぴったり重なる。
傷つくのも、苦しいのも、私だけでいい。
傷つけたくなかった。自分以外の傷の痛みも深さも、私にはすべてを請け負うことも理解することも出来ないから。どんなに大切な人であろうと、どんなに長い時を一緒に過ごした人であろうと結局は“自分以外”であってだからこそ理解しようとしても全てを理解することは出来ない。だからこそ、ツラい。いっそ全て肩代わりしてあげられたならいいのに。

「出来るわけ無いのにな」
「そんなの分かってる。分かってても願っちゃう、そうでしょ?」

まあね、と言い放つ彼女が嘲ったのはきっと私たちなんだろう。嫌と言うほど分かっているのに、同じ過ちを繰り返す。
無駄に年月を重ねてるだけの自分に嫌気が差す。
誰も傷つかないように、なんて偽善以外のなんでもないだろうに。

「今の私に、手を伸ばす、触れる権利は無いよ」
「よく分かってんな。そうだよ、そんな権利はない。今更だろ?」

鼻で笑う彼女に、私も同じように笑う。権利も何もあったもんじゃないのに、本当に何を今更。
与えられることに慣れすぎて、何かを与えることなんて出来ないのに。

「……それでも、アタシもあんたも今日は疲れてる。考えが堂々巡りだ。もう休むとしよう。そうにもならない」

一つ頷いて私は目を閉じた。
やがて来るだろう、暗い眠りを待つ為に。

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