変わることのない世界で

小さな物語の断片
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僕と私 ε
騙して騙されないようにして、そうして自己を保ってきた。終わりに近づくことで何かが解れようとも、支障を来たさなければ気にしないつもりだった。終わってしまえばどうでもよくなる、そう高を括りすぎていたのかもしれない。油断した、油断しすぎていた。

卒業式まで後残り一週間を切っている、と言うのに。

「蓮お嬢様、おいたが過ぎますよ」
「っ、は。なーにが“おいた”だ。どうせ親父の差し金だろう?それとも妹尾?お前に命令するのはどっちかだもんな、大河原」
「さあ。自分の立場がまだお分かりになられていないようだ」

手首にかかる圧力がより一層増して嫌な痛みを訴えてくる。手首を捻りあげられ、押し倒されてる様は傍から見たら強姦されているように見える。こんな手練な強姦魔なんて嫌過ぎるけれど。式前で六時頃となっちゃ学校はほぼ無人で、邪魔者もいなければ保護者と言えば難なく入れるのだから好都合なのだろうが。

「立場?俺は俺だ。それ以外の立場を自ら望んで欲した覚えはねぇな」
「まあ、今の状態はそうでしょうね」
「ぐっ」

鳩尾に容赦ない一発。呻いても表情を一切変えない辺り流石、と言うべきか。そもそも女の腹を思い切り殴るってどうなのよ、まあ今は男だけど。痛む腹を極力気にしないようにしながら周りに気を配る。
気配はない――いや、一つ近づく気配がある。うっすらと、だけど良く知っている気配。

「蓮ー」

がらりと扉を開け、入ってきた高槻に大河原も平静を装っているものの驚いたようで一瞬気が途切れ、手首を押さえる力が弱まった。その隙を突いて、思い切りその腹を蹴り上げる。しかし、執念か、手は完全に外れない。

「くそ」
「……ご学友ですか?」
「お前には関係ない」
「ああ、賭けの最中ですものね。貴女が、友人など作るはずはない、さしずめ“駒”ですか?」
「よく喋る口だな」

駒だ、最後に友好が解れようが問題ない。駒だと自分で決めた、それ以上の感情などないと自分で決めたはずだ。なのに、何故こんなにも感情が乱れるのか、平静が揺らぐのか。
“駒”だと言ったことに対して起こる面倒ごとへの苛立ちと大河原は取ったのだろう、嫌らしく笑う。

「がっ」

嫌になり殴ろって気絶させようと腕を上げたのと同時、高槻が大河原の脳天に肘を落としているのが目に入った。簡単に崩れ落ちる大河原に何が起きたのか分からずにいると腕を掴まれた。

「蓮、行くぞ」

最早空に近い鞄を引っ掴み、教室を飛び出す。教師も少ないので全速力で走っても幸い、咎める人間はいない。全速力で俺は高槻に半ば引っ張られるようにして駆け抜ける。そうだ、あと少しなんだ、こんなとこで捕まってたまるか。
階段を飛び降り、校舎を飛び出て、校門をくぐり抜ける。電車に飛び乗り、少しして降りたところで漸く自分がいつも使っている駅でないことに気づく。どれだけ焦っていたんだ、と脱力する。

「蓮」
「たかつき」
「利用してくれていいから。俺如きで蓮の欲しいもんが手に入るなら駒でかまわねぇから」

一瞬、何を言われたのか分からなかったがそれがさっきの大河原の言葉のことを言ってるのだと理解し、高槻を凝視した。何を言ってるんだ、と頭が瞬時に真っ白になった。怒るとか、責める、とかなら分かる。或いは脅す、逆上するなら分かる。なのに、高槻は何て言った?怒るでも対価を求めるでもなく、利用してくれて、駒で構わない?

「お前、馬鹿か?何言ってるか分かってんの?」
「分かってるし、馬鹿なのは蓮だろ?お前、さっきアイツが俺のこと駒、って言った時自分がどんな顔したか分かってる?」
「苛立った顔してたんじゃねーの?」

事実、そうだと思ってた。それ以外ありえない、と。大河原の反応からしても。なのに、高槻はまったく別のことを言った。

「違う。苦しそうな、泣きそうな顔してた。最初の時、利用させてもらうって言ったのは蓮の方だぜ?覚えてねぇ?」

そう言われると同時に抱きしめられ、その温もりに反発するどころか酷く安心している自分がいることに気づき、あまりの情けなさに泣きそうになった。
離れるのが、嫌われるのが怖かった?
いつでも離れられるようにと思ってた。嫌われる覚悟なんて、とうに出来ていると思っていた。それなのに恐れていた、なんて笑える。

「それでも、おかしい。駒で構わない、なんて。何の見返りもなしに」
「見返りなしに?そういうわけじゃねぇけど……じゃあ、今貰ってもいい?」

は?と不思議に思っているうちに距離が縮まり、唇に暖かい感触。何が何だか分からずにいるともう一度。

「キス。これが対価、っつーことで」
「なっ、何やって、ってか何言って、いや、何を」
「ははっ、そんなに感情むき出しの蓮はじめて見た」

混乱している私をよそに、高槻は綺麗に笑う。初めて見た笑顔などとは比にならないくらいに綺麗にそれこそ感情むき出しの楽しそうな安心する笑顔を浮かべていた。
漸く落ち着いて来た頃に続けてまたも爆弾を落としてくれる。

「なあ、蓮。卒業するまで家に来ねぇ?そっちの方が何かと安全だろ?」
「……は?高槻、お前何言ってるか分かってる?」
「分かってるっつーの。卒業するまで何かと仕掛けてくるだろ。なら家の方がいいじゃん。一般人巻き込むわけにも向こうもいかねぇだろうし」
「まあ、確かに。でも」
「いーって。それに、一週間一緒にいれば口説けるし」

続けざまの爆弾は思考回路を停止させるには十分すぎるほどで、固まっていると手を引っ張られた。くすくすと楽しそうに笑っている高槻を見ているとどうにでもなりそうな気がしてくるから不思議だ。
それでも卒業式まではまだ日があるから染谷蓮のままで頑張ろうといやに気力が出てきて手を振り解き高槻の背中を思い切り叩いて笑いかける。
この暖かい感情は大貫蓮に戻れるその日まで取っておきたい。

「じゃあ、世話になる。俺大食いだけど、いい?」
「――別に大丈夫だろ。卒業したら覚悟しとけよ」
「お前こそ」

後日、俺の家にやはりと言うべきか、親父からの刺客が仕向けられていたと貴ちゃんから聞きほっと胸を撫で下ろした。
あと5日間。親父の悔しがる顔と高槻の驚く顔を見ることだけを楽しみに気合を入れた。


 


上に立つ人へ・五題
嫌われる覚悟
 リライト様より拝借

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僕と私 δ
賭けだと分かっている、だからこそ敵も、ましてや味方も作らないつもりだった。それは自らを窮地に陥れる状況作りに他ならない、と思っていたからだからこそ、貴ちゃんと言う協力者以外は作らないつもりだった。それなのに、馬鹿だと思った。男であろうと決めた初日、挑んだその場所で情けなくも“私”はあっさりと女だと見破り、あまつさえ貴ちゃんとの会話を盗み聞きされたその相手の笑顔と言葉に一瞬で惹かれた。

「……まさか転校生が女顔ってだけじゃなくて本当に女だったなんて」
「っ、お前」
「染谷蓮?大貫蓮?」
「……何が目的だ」
「別に。ただ、退屈だから。楽しめそうだから」

言い触らしたり漏らしたりしねーよ、と嘯く男。名前は何と言ったか。

「高槻、ふざけるな」
「ふざけてないって。だったら俺のこと見張ってればいいんじゃないの?担任として」

そうだ、高槻。高槻司。“俺”の自己紹介の時に人のことを散々観察した後つまらなそうに窓の外を見ていた男だ。何で関わる、何で近づく、何で首を突っ込む。面倒なことになった、と思わざるを得ない。

「どうしてそれを信じられる、どうして」
「別に信じろとは言わないけど、確かめてみてもいーんじゃねぇの?そうだな、卒業するまで、とか?」

疑われているのにそれを露ほどにも気にせず、きょとんとした顔でさも楽しそうに笑って言葉を続ける姿に間違いなく心奪われた。それは大貫蓮としても持つにはあまりにも重い感情で、染谷蓮として持ってはいけない感情で。
自分の感情を押し殺すのは簡単だ、気づかない振りをすればいい。けれどもあまりに突然にやってきたそれは押し殺すよりも先に確実に気づいてしまい、確信してしまった。

「疑うのも結構。でも、一年とちょっと。終わる前にくたばっちゃ意味ないんじゃねーの?」

ま、お前がんな簡単にくたばる器とは思えないけど。

初対面で何が分かる、とか知った風な口を利くなとか強がりでも逃げ口上でもなく本当の意味でそう言えたはずなのに何も言えずただその笑顔に目を奪われた。
まるで落とし穴に落ちるように、堕ちた。
それでも、その気持ちは誰にも見せず、分からないように。
封じ込める。

「……いいぜ、その言葉、乗ってやるよ」

売り言葉に買い言葉。でも高槻司と言う一個人に俺が興味を持ったのもまた事実。驚く貴ちゃんを横目に、自分自身を騙すように挑発的に笑って見せた。

「存分に利用させてもらう」
「どーぞ、ご自由に」

ただの賭けを有利に進めるための駒が増えたと思えばいい。そう自分に言い聞かせて俺は深く息を吸い込んだ。



上に立つ人へ・五題
手の内は明かさない
 リライト様より拝借
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僕と私 γ
「染谷、お前に面会人だぞー」
「は?俺に?」

嫌な予感はしていた。それでも逃げ場などなかったから出向くしかなくて、わざわざ学校と言う逃げ場のない場所で待ち伏せていたことを考えると余程暇らしい。

「染谷君、知り合い?」
「いや、まだ誰か知らないし」
「何か大人の男、って感じの人」
「みっちゃん、俺に面会って誰。わざわざ学校まで来るような知り合いに心当たりないんだけど」
「会えば分かるって」
「――蓮」

嫌な予感が的中したのをみっちゃんの言葉に被さって聞こえてきた名前を呼ぶ声に知る。わざわざ何の用だ、と食い掛かりたいのを懸命に堪えて呆れ顔で応じる。

「……妹尾さん。わざわざ学校まで何の用っすか」

冗談きつい。妹尾拓馬、俺が縁談を破棄しようとしているまさにその相手、張本人だ。長身痩躯、髪の色は淡い茶色で瞳は漆黒。見目は確かに映える。頭も悪くない、そりゃあ妹尾家の御曹司様だ、馬鹿じゃ困る。ただし、性格は最悪。冷酷にして非情、傲慢にして無礼。使えるものは何でも使う、自分の為だけにすべての権力を行使し手に入れようとする男。

「冷たいな。もう授業は終わったんだろう?なら一緒に食事でもと思ってね」
「親父に言われた?」
「まさか。俺個人のお誘いだよ」
「−−ならそれ、俺も同席していいっすか?」

 警戒心むき出して、敵意を押し隠しもせず妹尾と対峙していると後ろからひょこっと俺の心臓に悪い登場の仕方をしてくれた。何を考えているのか、問いただしたい気分だったが、今はその何気ない不遜とも傲慢とも取れる一言が救いになったので何も言わず、ただわざとらしく驚いて何を言ってるといわんばかりの言い方をする。

「司、何言ってんだよ」
「いやー別に」
「君は?」
「蓮のクラスメイトですけど。明日の小テストの勉強蓮に見てもらう約束してるんすよ。だから、一緒に行ってもいいかな、と」

いつそんな約束をした、そもそも明日の小テストは本当に基礎の化学で勉強なんて要らないはずだ。と言うことは、高槻が機転を利かせてくれたのだろう。

「仕方ない、また出直すよ」
「いや、わざわざいいっすよ。忙しいでしょう?」
「蓮、君のためなら多少の時間は惜しまないさ。じゃあ、また」

さわやかに言ってのけるその目は笑っていない。軽く叩かれる肩、ああこの手を振り払い悠然と笑っていられる強さと力、そして何より勇気があればいいのにと自分の非力さを恨む。俺より賢くて経験もある年上の男、そのポジションが脅威で成らない。怖いのだ、手段を問わない、何でも出来てしまいそうな彼が。彼に抱くのは尊敬なんてものでも、ましてや恋慕などと言う甘いものでもない純粋な恐怖、畏怖。その気になれば勝手に縁談を進める、或いはこの学校から退去させることだって可能なはずだ。それをせずにいるのはなぜか、分からないから余計に恐怖心を煽る。

「蓮」
「っ、大丈夫だ」
「あれって」
「……婚約者。某メーカー社長妹尾賢治の長男」
「へぇ、あれが」

興味深げに後姿を見る高槻に震える手が見えないよう力強く手を握り締め、唇を噛んだ。



上に立つ人へ・五題
どうか勇気をこの手に
 リライト様より拝借
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僕と私 β

「条件出したのそっちだぜ?それを俺は呑んだ。今更確認するのはおかしいんじゃねぇの?」
「しかし、あちらがかなりの財力を持っているところの子息であることはお前も重々承知しているはず、違うか?」
「違わねぇよ?だから?大貫家の子供が男じゃなく女、それも俺一人なのは俺の責任じゃない、ってか誰の責任でもない。家を継ぐのも結構。けど、ただの金持ち坊ちゃんと政略結婚して、そいつに実権すべて握られて貞淑ないるだけの妻を演じるなんてごめんだ。知識も教養も自分の身を守る術も身に着けてきたつもりだけど、まさか今更あんな条件出して契約交わしておきながらやっぱり頼りないから、体裁が悪いからとか言うわけないよな?」

どこか冷ややかな、殺伐とした部屋でのやり取りは、とてもじゃないが親子の交わすものとは思えないな、と他人事のように思いながら蓮は口元だけに笑みを浮かべ、目の前の男に冷徹な視線を浴びせた。間違いなく実父で尚且つ大手企業の社長である男は実の娘であるにもかかわらず厳しくまるで他人に接するかのような態度で蓮に返す。

「本当にそう思ってるのか?」
「ああ、思ってるさ。少なくとも今まであんたが仕向けた奴らを伏せられるくらいにはな」
「…………」
「用はそれだけか?なら俺はもう行くぜ。あんたが出した条件だ、契約だ」





「…………なんでここにいるんだよ」
「いや、女な蓮が見れるかと思って」
「馬鹿言うな。んなもん見てどーする。気持ち悪ぃだけだ」
「それもそうか」
「てめっ……」

家を出ると何故か門の横に司がいて驚くも、次の瞬間には平静を装った蓮に面白くなさそうに司はつぶやいた。蓮は強い。大手企業の唯一の子息にして跡取り候補と言われ続け、知識も教養も身につけた。遊ぶ暇など殆どないくらいに詰め込まれたにもかかわらず周りからは女だから、ただそれだけの理由で馬鹿にされ、不安がられたことだって少なくない。それなのに平然と何事もなかったかのように振る舞い、笑い、毅然とした態度ですべての物事にぶつかっている。その姿が美しいと思う反面痛々しいとも感じてしまい、司は乱暴にその頭を撫でた。

「何っ」
「なんでもねー。明日英語と体育変更だってよ」
「あーじゃあ俺寝てるからいいわ」
「ずりぃ」
「特権」

下らない会話をせめて楽しんでもらえるように、と司はそっと蓮に笑いかけた。





上に立つ人へ・五題
肩に掛かる全ての重圧
 リライト様より拝借
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僕と私 α
 
「染谷蓮、ってお前だろ?ほんと女みてぇな顔してんのな」

ニヤニヤと下卑た笑いを浮かべ、女なんじゃねーの?と嘯く上級生に、転校して来てから一ヶ月。何回目だ、といい加減切れたくなる気持ちを抑えて最上級の笑みを浮かべる。勿論怒りを押し込めた営業スマイルだ。

「何ですか、もしかして告白ですか?悪いんですけど俺、男にキョーミないんで」
「ああ?ふざけてんのか?」
「ふざけてる?先輩が、ですか?いやぁ、いきなり名乗りもせず無礼千万な口を開いたのでそうかと思ったんですけど、ふざけてたんですか?」
「っ、てめぇ」

女みたいな顔、と言うのは否定しない。いちいち否定してたらキリがないし事実を否定するほど馬鹿じゃない。しかし、十分と言う短い時間でわざわざ来る奴の気が知れない。

「やだなぁ、そんなに怒らないで下さいよー」

繰り出された拳を受け止めながら笑顔で言えば流石の上級生も顔が引き攣っているのが分かる。相手の力量も分からず挑むもんじゃないっつーの。

「蓮、また遊んでるの?」
「アホ、どこをどー見たらそう見えるんだよ」
「いや、これから遊ぶんなら俺も混ぜろよ?」
「馬鹿言え。お前またみっちゃんの説教喰らいてぇのかよ」
「俺は逃げるっつーの」

やってきた高槻と軽口を交わしてると相手がそろそろ我慢ならなくなったのか、動こうとするが、そう簡単に動かせるような掴み方はしていない。そろそろ貴ちゃんが来る頃だし。最近、休み時間は心休まらない。

「高槻、次授業なんだっけ?」
「次はー何だっけ?」
「数学だ。……ったく、山口、お前次倫理だけどいいのか?」

やってきた担任にして従兄の二谷貴裕に相手は舌打ちしてすごすごと帰っていった。

「お前は何してんだ」
「仕方ねーじゃん。顔の造りまで変えられないし」
「まあ、実力あるからもう殆ど疑ってねぇしな。蓮がこんなとこで潰れるたまかよ」
「普通は性別偽って通学しねぇけどな……」

あくまでも小声の会話。こんなところで潰れる器だとは思いたくない。染谷蓮、男子学生として通ってるが本名は大貫蓮――女である。頑固親父との賭けで、男として卒業できたら無効にしてやる、と言う賭けだ。

「――まだ一年半以上あるんだぜ?負けてられるかよ」

こんなところで潰れるか。大貫蓮を捨てて、今は染谷蓮に徹してやる。
高槻の視線を感じながら貴ちゃんに促され席に着いた。




上に立つ人へ・五題
「人の上に立つ器」
 リライト様より拝借
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今が知りたくて
どうしたら伝わるのだろうかなんてそんなことは今更なんだろう。今まで散々逃げてきた、その代償。きっとただ一言、一言言えば終わるのだろう。けれどもその一言が怖くて言えなくて。本当に今更だろう、今も想いが自分に向けられている保障などどこにもないのに。


「那雪、最近元気なくね?」
「え?そうかな、寝不足気味だからじゃない?」
「……そうか?あんま無理すんなよ」

優しく頭に乗せられた手にほら、思わず手を掴みたくなってしまう。安堵感とそれと相反して高鳴る鼓動にばれないようにと自然うつむき加減になってしまう。どうすれば伝わるのだろう、どうすれば伝わるのだろう、どうすれば。一言だけですむのに、それを口にするのが躊躇われて怖くて。

「――ありがと」

何でそんな優しくしてくれるの?
聞けたら楽なんだろう。でも聞いてしまったら後には引けない、戻れない。それは分かりきったこと。

「無理して笑うなよ。そんなん見たくねぇから」
「ははは、津田君は優しいなぁ。だいじょーぶだって」

一つ一つの言葉が突き刺さる。染み渡る。
全ては君が好きだから
君の優しさが私を責める、うぬぼれさせるんだ。

『好きだ』

そう言ってくれた君に私は答えを延期させた。自分の気持ちが分からなくて、けれどその気持ちが嬉しくて。今思えば利用してるだけなのかもしれない、ふるのが惜しくて引き伸ばしてるだけなのかもしれない。そう思うととてつもなく酷いやつだと思う。

「津田君」
「……何も言うなよ」

ああ、どうすれば伝わるのだろう、伝えられるのだろう。
こんなにも君が好きだと言うことを。



恋愛に臆病になる10の感情
「すべては君を好きだから」
 リライト様より拝借




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関心は何処に
君の関心は何処に向いているのだろう。
君の視線は何処へ向かってるのだろう。
君の興味は何処に向いているのだろう。
考えても僕が答えを出せるわけもなくて、いつだって君のことを気づけば目の端で追っているんだ。僕がどんなに無関心を装ったところで、僕の視線は素直に君を追ってしまう。平静を冷静を無関心を装っても、僕の心はいつだって早鐘を打っている。君は知らないだろう。遠くから聞こえる君の声に僕が耳に神経を集中させてしまってることなど。



「設楽、何してんの?」
「パソゲー。これ、マジで面白いんだって」

イヤホンを耳にはめ込んで結構な音量で流す。話しかけられた時にだけイヤホンをはずして対応する。目は画面に、耳はイヤホンで彼女の事をなるべく意識しないようにしてるなんて知られたらそれこそ笑いもんだ。

「二人して馬鹿してるよな」
「大滝うるせぇ」

いつもと少し違う格好をしていても彼女は何も言わない、気づいてさえくれない。我ながら女々しいなと思いつつ大滝の言葉をスルーして思わずため息を零した。二人してって何だ。お前ほど馬鹿じゃない、……多分。

「設楽が馬鹿だって?」
「淵辺は余計なことばっかり聞いてるのな……」
「絞めんなっ」

変なところで会話に加わってくる淵辺の頭を軽く絞めながら咽喉の奥で笑う大滝を睨み付ければどこ吹く風で口出しせずただ黙って傍観している。長い付き合いになるがこいつだけは何を考えているのか未だ分からない。読めない。いつでも飄々としていて遠くを見ている。僕がこいつと長い付き合いになるってことは彼女とも結構長い付き合いになるわけで。そもそも、こいつが彼女の幼馴染だったから僕は彼女を知ることが出来た。それには感謝しているけど、他は……憎めないやつではある。

「あれ、お前髪切った?」
「……まあな」
「ふっ、設楽ぁ、お前ほんっと可愛いな」

大滝の言葉に僕と淵辺は思い切り勢い良く後ずさった。男に可愛いと言われても嬉しくも何ともない。寧ろ気色悪い。大滝はニヤニヤしたまま僕の頭をぐりぐと撫で回した。本当に何なんだ、考えなしのように見えて悔しいことに僕よりずっと頭の回転が早かったりするから気が抜けない。多分、いや絶対こいつは僕の心中などお見通しに決まってるんだ。だから、笑ってるんだ。

「うるせぇよ」
「気づいててあえての無言か、はたまたマジで気づいてないか」
「大滝ー。俺が悪かったからそれ以上言ってくれるな」

マジ凹むから。本当は彼女に一番に気づいてもらいたくて、一番に言って欲しかったなんて自分の女々しさにほんとに嫌になる。こんな女々しい部分が僕の中にあるなんてそんなこと知らなくて良かったんだけどな。それでもお願いだから、変化に気づいて。気づいて、欲しいんだ。

「お前が色々とかっこつけて言わねぇのが悪いんだろ」
「かっこぐらいつけさせろよ。いつもかっこ悪ぃところばっか見せてんだから」

そうだよ、かっこぐらいつけさせてよ。友達の前ではかっこつけて強がって、強くあれるのに彼女の前では弱い部分しか出て来ないなんて情けないにもほどがあるだろ。

「……設楽ってアホだよな」
「淵辺、お前殴られたい?」
「だってさー、設楽アホじゃん。動いてるっていいながら止まってちゃ世話ねーよ」
「立ち止まってる暇なんてねーんじゃねぇの?」
「少しは俺だって考えるんだよ」

どれだけ動いても君は変わらない気がして、その関心は僕以外のところにあるような気がして。ねぇ、せめて僕の変化に気づいてよ。
せめて僕の呼びかけに答えてよ。
少しでもこっちを見て笑ってくれれば僕はまた動き出せるから。




近いあなたへ5題 アルフェリア様より拝借

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意識方向
気づいていて知らんふり、いつまで続けりゃ気が済むのかなんて私が知りたい。
肝心な問題から目を背けて、いつか来るものを恐れて。空回りする想いだけが私の心を占めるから行き場のない想いだけになる。
伸ばした手はさも当たり前のようにごく自然に流されて、いく当てもなく空を掴む。
その繰り返し。それでも折れないのは悔しさと変なプライドとが競り合っているからだ。

「希沙。変な意地ばっか張ってない?」
「張って疲れたから本音出したのに、出したことで余計もやもやが増えてこれじゃ本末転倒だよ」

君の隣にいたいのに、君の隣にいることが辛くて仕方ない。君の隣にいると苦しくて仕方ない。君の隣にいるからこそ寂しくて仕方ない。おかしな話だけど実際そうなのだから、否定できるものなら否定したい。いてもいなくても変わらないならいなくても良い、寧ろいない方がいい。
しとしとと降る雨が濡らすのは体ばかりで私の心は依然、渇いたまま。雨に打たれるだけで何も流れはしない感情が嫌な音を立てて奥へ奥へともぐりこんでいくのが分かる。
私の言葉に璃紗が閉口したのが分かるもそれ以上に続ける言葉が思いつかず私も必然、口を閉ざす。考えすぎると口数が減るのは私の悪い癖だ。考えすぎると、悪い方向に考えすぎると途端身動きが取れなくなる。泣きたくても素直にはもう泣けなくて、そんな私の代わりに――陳腐な言い回しだけど、代わりに空が思い切り泣いてくれてる。

「寂しいの?」
「一言で言えばそうだね。好きだからこそ寂しいと思うし、辛いし、苦しい。私は空気になんてなりたくない」

いてもいなくても変わらない存在、いるのにまるでいないように扱われるのは嫌だ。璃紗はただ黙って空を見ている。雨粒の落下速度は増してきていて、地面にあたっては盛大に跳ね返り水面に波紋を広げて残していく。それは心の揺れにも似ていて複雑な気分になる。曖昧で中途半端な位置づけをどうにかする必要があるのは明白なのに、その方法を知らない、だから知りたかった。
それすら教えてくれないなんて、ずるい。

「希沙はどうしたいの」
「真実が、真相が、本音が、本心が知りたい。そうすればどうすればいいか分かる気がするから」

本当は怖くてたまらない。それでも現状維持なんて冗談じゃないから。
一向に弱まらない雨にため息を溶かし込んで大きく深呼吸をした。


近いあなたへ5題 アルフェリア様より拝借




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一心に想う
よく聞くマンネリ化の話。付き合い始めて暫くするとマンネリ、倦怠期に入るって話。一時期はそれを心配したこともあるけど、そんなのは杞憂で ―― そもそも付き合い始めてまだ日が浅い方なのだけれど ―― 一緒の時間を過ごす度、どんどん彼にはまっていく自分がいるのに気づかされる。一緒にいる時間が増えて、良いところも悪いところも、好きなところも嫌なところも沢山見るようになった。それでも、やっぱり好きで、その想いは付き合う前よりも膨らんでいるのが手に取るように分かる。
言葉に出来る想いや望みがあれば、口に出来ない不安や願いもあって。
以前の自分なら平気だったことも、今では耐えられなくなったり、大丈夫だと思ってたことが実は駄目だったりしたりもするのだけれど。それでも後悔してない自分がいる。

「でも、意外。まさか鈴と春がとは思わなかったもん。こう言うのもあれだけど、春って少し怖いもん」
「うん、それカミにも言われたし言ってた」
「怖くない?」
「別に。まあ時々言い方がキツい、って感じるけど怖くはないよ。時々だし、基本的に優しいし」

私が言うとエリーに怖いもの知らず、と言われた。そんなことないと思うけど。
私、鈴こと鈴奈の恋人にあたる春こと春樹とは付き合って半年ほどになる。正直なところ、第一印象は和み系でしかしながらとっつきにくそうなイメージがあり、あまり親近感はわかなかった。それどころか、多分長時間一緒にはいられないだろうな、と思った。
なのに、今となっては恋人同士と言うのだから何があるか分からない。まあ、私の場合第一印象があまりよくない人の方が親しくなっていたりするのだからあまりあてにならないのだけれど。
この数ヶ月間で、春の色んな面を見た。いいとこも悪いとこも。それでも相変わらず好きで傍にいたくて。

「鈴たちってバランス取れてるよね」
「そうかな」
「だって連絡とかあんま取らないでしょ?お互いに」
「まあね。でも言わないだけで私だって会えない時は会いたいし寂しいんだけどね」

多少なら我慢できる。けど、時折無性に会いたくなったり寂しくなったりする。口にしないだけで。重荷になるのも、一方的に頼るのも甘えるのも嫌だから。
不安になったり、嫉妬したり私だってする。―― 今まで自分さえ知らなかった感情を意図も簡単に覚えさせる。

「あたしだったら毎日でもメールするし、言葉が欲しいし」
「だろうね。私は言葉よりも態度で示して欲しい」

男は女の初めてになりたがるけど、女は男の最後になりたがる、ってどこかに書いてあったのをふと思い出した。
私は春が私の最初で最後であればいいと思う、あって欲しいと願う。知れば知るほど、一緒に過ごせば過ごすほど好きになっていくなんて私ばっかり悔しい。
多分自分は、彼に心底惚れている。
エリーともカミとも違う私の恋愛観だけど、やっぱり私は私で。
どんどん好きになっていく、この想いに歯止めが利かなくて。
ずっと一緒に、傍にいられればいいと心底思う。
初めて知った自分の中の醜い感情も、春といるだけで浄化できそうな気がするから。
ただ願うのはそれだけ。



好き過ぎる7のお題 リライト様より拝借




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距離
お互いがお互いのことで悩んでるなど考えもせず、和志は和志で、葛葉は葛葉で溜め息の要因は尽きない。それを相談すれば『幸せな悩み』と揶揄される。お互いを想うからこその悩みであることは間違いない。自分だけが悩んでるわけではない、と知ったのはつい最近で、それも友達に諭されて漸く頷いたのだから何ともまあ。



「……何話してんだか」

テラスから見えた葛葉と孝が楽しそうに話している風景に和志はぽつりと誰ともなく漏らした。別に普通に仲のいい友達なら問題ない。しかし、和志は知っている。孝が密かに葛葉に惹かれていることを。伊達に見てるわけじゃない、と内心ぼやいてそのままじっと見る。何を話してるのかなど分からない、けど気になってしまって仕方ない。そんな無防備に笑いかけるなと言いたくなるのを堪える。葛葉より頭二個分背の高い孝が葛葉の隣に並ぶと割と様になっててそれが腹立たしいとは言えない。

「高島先輩何してるんですか?」
「広崎、ああ、課題出してきたのか」
「はい」

そんな風に外を見ていると和志の一つ下の部の後輩である麻衣子に話しかけられた。嬉しそうに返事をする麻衣子に笑いかけて、ぼーっとしてた、と答え二人から目を離し和志は麻衣子に向き直った。

「そういえば、この問題の解き方って先輩分かります?」
「ん?ああ、教えようか?」
「いいんですか?お願いします」

そいつなんかに近付くな
最後にもう一度だけちらりと外を見て和志は麻衣子に教えるべくその場を離れた。



「でさ、どう思うよ?俺としてはカラオケがいいんだけど」
「んー遊園地とかも捨てがたいけどね」

孝と連休行くとしたらどこに行きたいか、と言う質問に葛葉はうーん、と考えた後テーマパークの名前を列挙した。出来ることなら和志と出かけたいなどと思ってることは秘密だ。葛葉は孝を見ながら次の連休はどこに行こう、と現実的に考えていた。

「確かに、絶叫系で叫びまくるってのも楽しそうだな」
「でしょ?カラオケでもいいけど、思い切り叫ぶ、ってのとはまた違うし」
「確かに。絶叫系の方が開放感あるもんな」

賛同したところを見て、ふとテラスの方に目を向ければ和志と麻衣子が仲良さそうに話しているのが目に入った。後輩だと以前言っていた。和志にとってはそれだけかもしれないが、麻衣子にとっての和志はただの先輩と言うわけではなさそうだ。それは見ていれば分かる。多少なりの好意を持っているのは間違いない。何を話しているのかは流石に分からなかったが、傍から見れば楽しそうに思える。そんな不用意に他の子に優しくしないで、と言いたくても言えない。ふわふわと甘いカールを巻いた小柄な麻衣子と並ぶとソレっぽく見えて面白くない、などとは流石に言えない。

「連休前に課題出されないといいけどね」
「うわ、やなこと言うな」
「だってわかんないし」

あいつなんかに近付くな
テラスをもう一度見上げて、葛葉は孝と一緒に中へ入っていった。


お互いの気持ちを知らず、それでもお互いを想う気持ちは確かで。俗に言う『幸せな悩み』が解決する日はそう遠くない、はずである。



好き過ぎる7のお題 リライト様より拝借




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