変わることのない世界で

小さな物語の断片
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合縁奇縁ε
旭のことがあってすっかり忘れていたが、そういや、木月はモテるんだったなと今更ながらに思い知らされる。最近は特に一緒に過ごす時間が長かったからか、そういう話を聞かなかったから忘れていた。
しかしながら、タイミングも場所も何もかもが悪すぎる。
何故、今、この時期に、この場所で、このタイミングなのか。
目の前で繰り広げられている告白劇。私はバレないように息を潜めるので精一杯だ。

「ずっと、好きだったの。ずっと、いいな、って」
「だから?」

かわいらしい女の子の声に応える声は、普段よりも少し低い聞き慣れた木月の声だ。覗いた先に見えたのは、木月の後ろ姿と、可愛いと評判の女の子だ。二人並んだらさぞかし絵になるんだろうな、自虐的な思考がよぎるも耳に入ってくる声に現実に呼び戻される。緊迫した空気が流れてるのを感じながら、それでもその場から動けず――好奇心なのか、或いは恐怖からなのかは分からず――じっとただ息を潜める。告白するなら誰もいないことぐらいきちんと確認してからしてほしい、というのは現在の状況下にいる私からしたら至極当然な意見だ。

「付き合って欲しいの」
「それを、今の俺に言う?」
「広瀬さんのこと?気にしないよ、木月君のことだもん、どうせ遊びでしょ?」
「遊び、ねえ」
「違うの?でも、振り向いて貰えないなら諦めてもいいころだと思うの」

聞こえてきた自信に溢れた言葉が、先日の稜の言葉と重なり思い切り突き刺さる。遊びで恋愛するような奴じゃないことは何となく、わかる。そんな面倒事を自ら好んでするような奴ではないが、それでも未だ私を好きでいてくれる確証などどこにもない。

『諦められても知らねえよ?』

リフレインする言葉は胸を締め付け、息苦しくさえ感じる。言葉の真意が曖昧になってくる。彼女の言うことは一理ある、振り向いて貰えないから諦める、というのは流れとしては自然なことだ。自分の都合で振り回してしまっているのは事実なのだから。

「別に、諦めたからってあんたのこと好きになるわけじゃないと思うけど」
「好きにしてみせる。だから」

自信満々な彼女の声と同時に、動く気配がした。そっと覗くと、木月の懐に飛び込んでいる姿が見え、固まる。もし、私のことなど諦めていたとしたら、当然、一緒にはいられない。今までとはまた意味が違ってくる。

「……あんたに興味ねぇから。諦めろ」
「っ、酷い」
「酷い?俺は本当のこと言っただけだ。離れろ」

木月が鋭く言い放った言葉のすぐ後に、慌ただしく駆けていく音と、大きな溜息とが同時に聞こえ話が終わったのだと知る。けれど、まさか姿を現せるはずもなく、そんな元気もなくただ胸の中に残された何とも言えないもやもやとした感情を何とか落ち着けようと努めることに精一杯だった。蹲るようにしゃがみこんでいたせいもあり、だから、木月が動いたのに気付けなかった。
自分の名前を呼ぶ声に、初めてそのことに気付く。

「陽?」

思い切り反応してしまい、目がしっかりと合う、木月の顔に浮かぶ驚きの色を見て自分がどんな表情をしてるのか悟り勢い良く逃げようとするが。逃げる為の一歩を踏み出すと同時にその腕を掴まれた。予想外に強い力に驚くも振り返ることはしない、いや、出来ない。いつもとは全く違う痛いくらいの強さで掴まれた腕は、一向に解放される気配がない。

「陽、何で逃げるんだよ」
「いや、逃げれてないから。不可抗力、人がいないのを確認しない方が悪い」
「へぇ、それだけ?」
「……放して」

意地の悪い響きを持たせているくせに、普段の余裕や隙を感じさせない語気と空気に逃げ道がないことを教えられる。より強くなった力に一瞬怯めば、その隙をつかれ引き寄せられた。間近に真剣な目があり完全に逃げ道を絶たれた。聞こえてくる鼓動が、どちらのものなのかさえ分からないほど、急展開についていけず余裕ぶっていた過去が懐かしくさえなる。きっかけが欲しかったのは事実、タイミングを図っていたのも事実、けれど、こんな突然に来るとは思っていなかったのもまた事実。
さぞかし情けない、余裕のない顔をしているのだろう。

「自分が今どんな顔してるか分かってる?」
「なんとなく、予想はつく。だから」
「離さねえよ。いや、逃がさねえ」

この瞳に捕まるのが怖い、強い光、生半可じゃ飲み込まれそうで、だから確かな物にしたかった。飲み込まれないように。そう、強く惹かれるからこそ怖い。手放そうにもきっと手放せないであろう手。焦がれていた存在でもあるからこそ。

「怖い」
「それは、“遊び”かもしれないから?」
「遊べるかもしれないけど、木月は遊ばないでしょ。違うよ、最近大人しかったからもう良くなったのかもって思った。寂しさ感じてる自分に気づいて。……木月は強いから怖い」
「強い?俺が?」
「うん、木月の存在が強いから」

引き込まれるのが、飲み込まれそうで、惹きこまれるのが、呑みこまれそうで怖かった。いや、今も怖い。ひき込まれたらきっともう戻れない。それが何となく感じられるから余計に。
野生じみた強さではなく、もっと精錬された強さがある。だから、知らず知らずの内に引き寄せられる。

「強いのは陽だろ。絶対にぶれない、……強ぇ、って思うよ」
「ぶれないように考えてはいるから」
「それができる時点で十分強ぇよ。強さ故の優しさとか、気遣いとかに惹かれる。存在自体が俺にとっちゃ何よりも欲しいもんなんだよ。誰にも渡したくない。陽を俺にくれよ」

照れくさくなるほどまっすぐすぎる言葉は、けれど私に決意させるには十分でかわすことを諦めさせる。
気づいてはいたけど、欲しかった執行猶予期間は私が腹を括るための期間だ。自分の知名度を知っていたからこその大袈裟とも言えるアピールは、自身の本気が伝わらなくなるリスクを背負って私に害が及ばないようにしてくれていたからだ。

「私は安くないよ。自分を全部差し出すくらいじゃないと」

全部なんてあげない。一人で二人分背負うのは重すぎる。だから。

「お前に比べりゃ安いもんだよ。俺で良ければいくらでもやるよ」

惹きつけられる笑みで笑う木月を見て、自分の中で確かなものになっていることを確信し、手首を掴んだままの手を振り解き驚いている木月の隙をつき、その手を思い切り引く。どうなるかは明らかで。

「っ、陽?」
「好きだよ、好きだ」

呆けている木月をよそに目を見て言ってやれば耐えかねてか、目をそらされた。よく見てみれば耳は真っ赤だ。

「木月?」
「……見んじゃねぇよ」

精一杯の悪態は精一杯の強がりで。初めてこの男のことを素直に可愛い、と思った。

「さて、戻るか。長居しすぎた」
「余韻に浸る、とかねぇの?ま、いいけどさ……」

さっさと戻ろうとしたのが不服だったらしく少し拗ね気味の木月が可愛く見えてしまうあたり重症だ、自覚をしつつ足は止めない。照れくさい、というのもないわけではないが、それ以上に早く戻りたい理由があるからだ。

「今なら多分、稜の告白現場に間に合う気がするから」
「は?稜人の奴、告白するの?」
「うん、またあの馬鹿男が旭にちょっかい出してるみたいだからいい加減切れる前に、って」

少しの沈黙の後に、なら仕方ないか、と呟いたのを見ると理解してくれたらしい。若干の不満が顔に残っているのが分かるが、それなら、と分かってくれたのは嬉しい。
繋いだままの手を深く絡めて、歩き出す。少し足早に、人気は既にまばらだから人目を憚る必要性もあまりない。

「っわ」

廊下を歩いていると、いきなり木月が立ち止まり私は半ば後ろに引っ張られるような形で立ち止まらされた、否、何だと思ったのも束の間。体中に感じる温もりと唇にある感触にパニックに陥りながらも、何をされているのか理解した。理解しただけで動けはしなかったが。

「木月っ」
「陽が好きだ。大好きだ。――俺が大人しいと寂しいんだろ?」
「気のせいでした、つーか誰かに見られたら……」
「見せつけてやりゃいい。虫除けっつーことで」

アホか、と思うけれど繋いだ手は離さず。
きっかけは少しの好奇心と一冊の本だった。
あの日の会話が始まりで、本当に一瞬のすれ違いのようなものだったのに不思議だなと痛感する。
繋ぐ手の力を少し強めて歩みを再開させた。握り返す力も少し強くなった気がした。


変態に恋されてしまいました5題
5.大人しいとなんだか寂しいです

 確かに恋だった様より拝借
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最後の方の無理やり感、否めません。すみません
木月のように一途に相手を想い、思いやれる男って中々いないとは思う
ただ、想いのバランスが取れてればいいのに、とは思います
難しいですね、色々
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