変わることのない世界で

小さな物語の断片
スポンサーサイト

一定期間更新がないため広告を表示しています

- - -
合縁奇縁δ
 好きだの愛してるだの、それを木月がわざわざ声を大にして毎日のように言う理由には薄々気づいている。それでも、まだまともに向き合う気がないのは、私の中で木月という存在が確立されるまで時間が欲しいからだ。
そのことに気づいているのはきっと稜だけ。

「あれ、陽一人?」
「そーだよ。木月も、残念ながら旭もいないよ」

残念、と呟きながら隣に座る稜に食べていたお菓子を勧める。
その一つを当たり前に取り口に放り込むと、これまた当たり前のようにさも自分のことを語るように言った。

「まだ足りないわけ?」
「……もう少し、かな」
「諦められても知らねえよ?ほんと、疑り深いよな」

その時はその時で、そういう相手ではなかったと思うだけだ。木月が私の特別となりうるかどうか、一種の賭けでもある。稜にとっての旭になるのかどうか、今はその見極め時だと勝手に思っている。木月ファンが聞いたら何様だ、と言われそうだが別に好かれていることに胡坐をかいているつもりはない。最初は戸惑ったけれど、きちんと木月を見られるようになってからは私なりにきちんとあいつの言葉と、気持ちと向き合っているつもりだ。傍から見たらどう見えてるのかは知らないが、逃げているつもりも蔑ろにしているつもりも適当にあしらっているつもりも毛頭ない。

「そーゆー稜はまだ言わないの?」
「お前さ、あの旭が気づいてない、なんてありえねぇだろ?まあ、ちょっとこの前、カズさんからムカつくこと聞いたからそろそろ動きはするけどよ」

稜にしろ、きっかけが欲しいのだ。動くための後押しが。私が欲しいのは確信で、それさえ得られればきっとタイミングはいい感じで木月がくれるだろうから。

「ああ、あの馬鹿男?」
「……やっぱ知ってたか。身の程を知れっつーの」

一昨日、関わりなど殆どないだろう上級生が旭の肩を馴れ馴れしく抱き、告白したことは記憶に新しい。にっこり笑顔で毒づいた旭も鮮明に覚えている。
旭は綺麗だ、言い寄られるのも珍しくないが旭の毒舌はちょっとした名物にもなっているため、最近はいなかったように思う。或いは稜が潰してたか。

「まあ女が絶えないことでは有名だったみたいだけど、見物だったよ」
「俺は自分のことカッコいいとか自惚れるつもりはないけど、あんな馬鹿よりはマシだね」

稜が動くのが先か、或いは同時か。それはその時になってみないと分からないことではあるけれど、そう遠くない先のことであることは分かる。私がこのままでいれば、木月はまた何らかのアクションを起こすであろうことも何となく分かる。それでもタイミングを間違えたくなくて、ただ頃合いを見計らっている。稜とてこの前のことを考えればそのまま黙っているだけとは考え難い。稜の言うように、旭が全く気づいていないというのはそれ以上に考えにくく、現状維持を続ければ間違いなく旭の中での稜の株は大暴落するだろう。私以上に稜はタイミングを失えない。

「難しいよねぇ」
「難しいよなぁ。陽はいいじゃん、カズさんがあんだけ機会与えてくれてんだから。俺なんか、ぜってぇしくれねぇし」

余程のことがない限り、失敗などありえないのに相手が相手なだけ、慎重になっている稜はなるほど、私がアタックする側だったならそのまま私の姿なのだろう。なかなかに興味深いが、その反面、今の立場で良かったと痛感させられる。
余計な杞憂は要らない。

「楽しませてね」
「そんな余裕ないっつーの」

私にだって余裕があるわけではないのだが、それは別に言う必要はないだろう。人の気持ちは変わる、それを知っているからこそ悠長に構えられるわけもなく、また、気楽に構えているわけでもない。
だから、そろそろ臨戦態勢に入って構える必要があるのだ。

「だから」
「陽、ストップ。また後で。‐‐カズさん、こっち。珍しいね、今日は遅いじゃん」

いきなり話を止められ、稜の視線の先を見るとそこにはやけに眠そうにしている木月の姿があった。
あぶねぇ、と内心かなり動揺しながら平常心を必死で手繰り寄せる。

「文句なしの遅刻。何、二人きり?ずるくね?」
「今更だろ……それに、稜とは以心伝心だし?」
「陽、あんま俺を妬かせると食っちゃうぞ?」
「やめて、それ冗談に聞こえない」

冗談に聞こえないが、できるものならやってみろとも思う。それは間違いなくきっかけになるから、どちらに転ぶかは分からないけれど。
駆け引きだ、と思えど本気を出されたらきっと勝てないことも分かってる。その隙を優しさだとは思わない、最初から本気を出したら私が逃げることを知った上での隙だ。だからそれを優しさとは思わない、寧ろ罠だと感じる、絶妙に張り巡らされた罠だと。距離感を掴めなくさせる絶妙な。

「でも木月が遅刻なんて珍しいね」
「確かに……先にいた方が逃げやすいのか」
「まぁなー。くそ眠い、陽、膝貸して」
「断る。寝れば?女子除けくらいはしてあげるよ」

それを優しさとは思わない、策略だ。
その隙も、恐らくこの遅刻も。不快に思わない駆け引きは、清々しさと狡猾さが混在する。
驚いたように、柔らかく笑って眠りに落ちていく木月を見る私を知った顔で見る稜と目を合わせないように窓の外に目を向けた。



変態に恋されてしまいました5題
4.食べちゃうぞが冗談に聞こえません

 確かに恋だった様より拝借


*****************************
駆け引きを楽しめる相手、ってなかなかいないと思うんです。
タイミングって大事で、タイミングでつかめるもの、失うものも
結構あるんじゃないかな、って
お題 comments(0) -
スポンサーサイト
- - -
comment









CALENDAR
S M T W T F S
      1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
<< February 2020 >>
PROFILE
NEW ENTRY
CATEGORY
MOBILE
qrcode
COMMENT
ARCHIVE
LINKS
RECOMMEND
RECOMMEND
RECOMMEND
SPONSORED LINK