変わることのない世界で

小さな物語の断片
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契約破棄 E

病室を後にすることを許されたのはあの一戦を交えてから、優に一ヶ月ほど経った頃だった。すぐ無茶をするtから、との理由で少し傷が癒えた程度での退室はリュシカが許してはくれず、 完治するまで――とは言っても傷痕はある程度残るのだが――いることを命じられた。

「大分治ってきたようだけど無茶は禁物よ」
「はい」

お世話になりました、そう頭を下げて礼を述べるも、リュシカはニコニコとジェスカを見るだけで何も言ってこない。しかし何か言いたいことがあるのは明白で、その手はジェスカの腕を掴んで離さない。

「リュシカ様?」
「そろそろいいんじゃない?覚悟を決めなさい。生きる覚悟、それと受け入れる覚悟。言いたい奴には言わせておけばいいわ。所詮ただの僻みだもの」

リュシカが何のことを言っているのか分からないほど馬鹿ではなく、“覚悟を決める”それはいつだって迫られていたことで、だからこそジェスカは一番楽な“死ぬ覚悟”をしてきた。誰にも委ねることなく、誰かに頼ることなく、一人で覚悟が出来た。リスクを負わずに賭けに出ずに、裏切られる恐怖を覚えずに覚悟を決められる。生きる覚悟はなんとか出来そうなものの、、受け入れる覚悟はそうもいかない。自分の出生も分からず、自分が何者なのか図りかねていたジェスカにしてみれば重すぎるものでしかなかった。リスクが大きすぎた。だからこそ。リュシカが何を言わんとしているのかは痛すぎるほど分かっていた。
何を受け入れろと言いたいのか、嫌と言うほど理解できてしまい閉口するしかない。受け入れる、何を、ザクトの好意を、だ。

「まだ体裁とか、自分なんかとか思ってるの?体裁は貴女を守ってはくれないし、ましてや、ザクト様がそれを望むはずもないわ。自分に嘘を吐き続けて、気づかない振りを続けて何になるの?」

鋭く容赦ない言葉はそれ故にジェスカに逃げ場を与えず急速に追い詰めていく。ジェスカが自分の生い立ちを気にしていて、それ故にいつもザクトの言葉をあしらっている事をリュシカは知っていた。
どこの誰かもはっきりしない人間を第一王子が近くに置くべきではない、と。自分のせいでザクトの品位や地位が脅かされるのが嫌だったし、相応しくないと思っていた。いつかきっと邪魔になる、そう信じて疑わずにいる。ジェスカ自身、ザクトに惹かれていることには随分前から気づいていた。けれど、それを認めてしまうのが怖くてずっと見てみぬ振りを続けていたのは事実で。

「でも」
「どうなるか、何てなってみなきゃ分からない。そうでしょう?」
「……はい」
「なら、進んでみなさい決して悪いことばかりじゃないでしょうから」
「……は、い。リュシカ様は、ギア様と一緒になって後悔してませんか?」

ジェスカからの思わぬ問いにリュシカは少し驚いた後、柔らかく笑ってみせた。

「後悔しなかったわけじゃないわ。けど、良かったと思えることの方が断然多いから、今はもう後悔しないようにしてるの」

そう言って病室を後にしたリュシカの後姿を見送り、ジェスカは目を閉じて大きく息を吐いた。





「ジェスカっ、もう大丈夫なの?」
「ユミル様。はい、お蔭様で。ご心配おかけしました」

荷物をある程度運び終わり、手続きを済ませた帰り病室まで駆けつけて来てくれたらしいユミルとばったりと出くわした。表情がころころ変わるユミルに心配してくれたんだな、と嬉しくなる。

「本当に治って良かったわ。痕は残ってしまうけれど。ねぇ、ジェスカ」
「何でしょう?」
「何かいいことあった?」
「え?」
「凄くいい表情してるわ。何か、すっきりした顔してるもの」
「そうですか?」

ジェスカが聞くとユミルはすぐさま頷いた。
リュシカに言われてあの後一人で散々考えた。自分がどうしたいのか、何をすべきなのか。答えなんて出はしなかったが、それでもジェシカなりに考えて答えを導き出したのだ。逃げないで向かい合うのなら。

「お兄様にも顔見せてあげてね。凄く心配してたから」
「分かりました」






「ジェスカ」
「ザクトさ……っ」

ジェスカが自室へ戻ると部屋の前に何故かザクトがおり、目が合うなり抱き締められた。この前は普通に接してたのに、と思わずにはいられないほど力強く。息苦しさを感じるが、その苦しさが単に息苦しいだけなのか、それとも感情が揺れているのかは分からない。

「ザ、クト様っ、くるし……」
「あ、ああ、悪い。……治ってよかった」
「ご迷惑おかけしました。明後日からは復帰できると思います」
「ジェスカ、少しいいか?」
「……何でしょう」

ザクトに真っ直ぐに見つめられ、手を取られ反論らしい反論が出来ぬままジェスカはそのままザクトにつれられて一室へと足を踏み込んだ。そこがどこか知らないはずもなく、最初は躊躇ったものの、押されて仕方なくと言った形で部屋へと入る。ジェスカの部屋とは何から何まで違うそこは間違いなくザクトの私室で本来ならば、王族と一部の近衛騎士、リュシカしか立ち入りを許されない場所だった。

「ザクト様?」
「目を覚まさないお前を見て、気が狂うかと思った。ボロボロになったお前を見て、それでもお前は俺が王子だから、とか自分がメイドだからとかで守らせてはくれない。失うことが酷く怖くなった。いや、いつだって怖かった」

いつになく真剣で真っ直ぐな、けれどどこか切なさとか苦しさの漂う瞳にジェスカは何も言えずただ黙って聞いているしか出来ない。何から言えばいいのか、何を言えばいいのか。今までなら当然です、だとかそれが役目で立場だとか言えたのに、いざ覚悟を決め決意すると上手く言葉になってはくれない。

「卑怯でも構わない。俺の、俺の側にいろ。それがお前の役目なら」

ザクトの表情を見た瞬間、この人も自分と同じ苦悩を感じているのかとどこか親近感がわいた。守りたいのに守れない、立場だとか体裁だとか。確かに大きい、けれど些細なことにすぎないのだと。

「俺の我儘だ。ジェスカにとって俺がただの主で一国の王子にすぎなくても――「いえ」

ザクトの悲痛な、苦悩している顔をこれ以上見ていたくなくてジェスカは話を遮るように声を絞り出した。かなりの勇気とそして時間を費やしたが、それでも漸くここまで来てやっとジェスカは自分の本心を口にした。

「私にとって貴方はたったひとりの大切なお方です」
「ジェス、カ」
「王、ザッシュ様に引き取っていただき、私はその時契約を交わしたんです」
「契約?」
「ええ」

暗部に配属されることが決まったその日に交わした密約じみた契約はそれが破られるその日まで他言無用だと交わしたものだった。深呼吸をしてジェスカは続きを話した。

「暗部に配属されることが決まったその日、五つの約束をしました。一つ、素性を決して明かさず国と共にあること。これはまあ当然なんですけど。一つ、王宮外に出る時は言伝をし、また所轄外の場へは何があっても立ち入らないこと。一つ、名をジェスカ=エミリアとし、決して本名を口にしないこと。一つ、任務を最優先し、また機密事項に関しては任務完了次第記憶から抹消すること。そして、一つ。王族に無闇に近づかず特別な感情を抱かないこと」
「な、に」
「契約だったんです。契約を破ったことになりますね。いや、自ら破ったことになるんでしょうけど」

いつもは立場だとか、規律だとか、約束だとかを重視するジェスカが妙に清々しく言うものだから、ザクトは中々口を挟めず先ほどのジェスカのようにただ続きを待った。

「ザクト様。私は自分の出生をよく知りません。契約違反でもしメイドでなくなったとしても、お側に置いて下さいますか?」
「ジェスカ、それは」
「リュシカ様に怒られました。逃げるな、と。……ザクト様を、お慕いしております」





2年後、王位継承式が執り行われ、王位を継いだザクトの隣には皇室入りしたジェスカが並んでいた――。






主従関係で主の片思い5題
「私の側にいろ。それがお前の役目なら。
「貴方はたったひとりの大切なお方です

 確かに恋だった様より拝借
 
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一回このデータが消えて泣きました
三月お題、消化完了しました!主従関係でとか好きです
女性が強いともっと良い←
書きたいシーンとか言わせたい台詞とかが書けたので満足
お付き合いくださりありがとうございました

婚儀を行った時、シュマはそりゃもう悔しそうな顔をしてたそうです
多分
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