変わることのない世界で

小さな物語の断片
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契約破棄 D
パーティーも終わり、ゼストたちが帰る時となった。それまでの間、ジェスカは他のメイドたちから質問攻めにあい、それを難なくやり過ごすのに大変ではあったのだが。

「お気をつけて。またいつでもいらして下さい。ユミルも、お会いしたがるでしょうし」
「ええ。また訪れさせて頂きます。是非わが国にも、交渉だけでなく遊びにいらして下さい」
「是非」

とても穏やかな別れに見えるものの、実際はそう穏やかでいられなかった。と言うのも、昨日、不穏な噂が舞い込んできたからだ。両国の協定を快く思っていない者たちが腕の立つ殺し屋を雇った、と言うものだ。それにより厳戒態勢が引かれ、警備が厳重になっていて物々しい雰囲気は隠せない。

「ジェスカ」
「何?」
「気をつけろよ。死ぬ覚悟なんてもんは決めるな」
「ありがとう、覚えておくよ」

分かった、とは言わず覚えておくとだけ告げたジェスカにシュマはとても複雑な顔をしたがジェスカは笑って誤魔化した。生きる覚悟は出来ないくせに、死ぬ覚悟だけはいつだって出来ていた。孤児院にいる時も、暗部に入ってからは尚更。誰かを守って死ねるのならそれだけで十分だとさえ思っていたのに、シュマとゼストは何時だって心配してくれてたし、ザッシュに限っては暗部として護衛として雇ったくせに死ぬなとまで言うので生きる覚悟が必要なのかと思えてくる。結局、その覚悟は出来ないままなのだが。

「ねえ、ジェスカ」
「何でしょうか」
「ゼスト様の子供の頃の話、聞かせてくださらないかしら」

見送った後に少し照れくさそうに言うユミルに微笑ましいな、と思いながら頷いた。後で部屋に行く、といい一旦その場を後にした。




ユミルの部屋へ向かう前だった突如外が騒がしくなり警報が鳴り響いたのは。

「賊が五人、今確認されてるわ。ジェスカ、出れる?」
「リュシカ様。はい。ザッシュ様たちは」
「ザッシュ様にはギアとチェンたちが着いていて、ザクト様には今のところユタのみ、ユミル様にはフェスとウォンが着いてて、他の方々にも五人ほどついているし、今のところご無事よ。ジェスカは私と共にザクト様のところへ向かって貰います」
「分かりました。他の者たちは」
「メイドたちは待機、他の者もそれぞれの持ち場へ向かっています。現在負傷者は十名。相当な手練のようだけど、所詮は雇われただけの賊。生死は問いません」
「――了解」

普段とは違う格好のリュシカに事を即座に理解し、ジェスカも手馴れた動作でメイド服を脱ぎ暗部の時に愛用していたそれに着替える。数分と掛からず準備を終えたジェスカにリュシカは武具を手渡すとザクトの部屋まで走り出す。ジェスカもそれに遅れずに続く。

「リュシカ様ッ」
「くっ……ジェスカ、大丈夫?」

向かう途中、飛んできた短剣を寸でで避け、現れた敵に刃を向ける。ジェスカより背が高く体格からして間違いなく男だろう。それでも同等かそれ以上の力でジェスカはその男とやりあっていた。

「ここは私が喰い止めますから、ザクト様のところへ」
「……っ。分かった、何とか持ちこたえるのよ」

リュシカにザクトを任せ、ジェスカは再度敵と向かい合った。深くマスクをしていて全体の顔は掴めないが十分すぎるほどの特徴を持った瞳とぶつかった。グレーと言うより白に近い両の瞳に少しだけ顔を覗かせている裂傷。

「白の嵐<ホワイトストーム>……」
「俺も随分と有名になったもんだな」

稀代の暗殺者。過去、多くの要人たちを闇へ葬りまた、数々の秘密をも暴いてきたと言う伝説とまで言われる暗殺者。その両の白い瞳とその仕事の後は嵐が去ったように屍が散っていることから付けられた名前が白の嵐<ホワイトストーム>だ。ジェスカを前に口元を歪めると楽しむように刃を交えてきた。咄嗟にジェスカもそれに応じる。投げ技を使われるより、こうして実際に刃を交えている方が足止めには丁度良かった。

「……もしかしてお前、ラーク、か」
「そんな風に呼ぶ輩もいたな」

ラーク、と暗部時代つけられた名前を久々に聞きジェスカは思わず顔を顰めた。暗部時代にあまり良い思い出はない。それに何故か高笑いする相手にジェスカは更に身構えた。饒舌で派手な奴だな、と舌打ちしたくなるのを押さえ、ただ相手の出方を伺う。
しかし、ジェスカは知らない。ラークという名前がどれだけ有名なのかを。どれほど脅威となっていたのかを。

「面白い、本気で遊んでやるよ」






「リュシカ。賊4名、始末は完了した。1名は生存。他3名は死亡、1人は自害だ。今はもう一人の探索に全力をあげている」
「分かったわ。ザクト様、ザクト様も安全な場所へ」
「……ああ」
「申し上げにくいのですが、賊はどれも相当な手練のようで、今現在吐かせておりますが残っている一人が一番危険かと」
「どういうことだ?」
「賊の話によりますと、ホワイトストームが雇われていた、と。しかしながら捕らえた賊の中に白い目を持つ者はいませんでした」

近衛騎士団団長であるギアの報告にザクトは眉根を寄せ、リュシカは慌ててギアを見た。

「ジェスカの無事は確認されたの?」
「それはまだ。今、そちらも探している」
「リュシカ、どういうことだ」

リュシカの言葉に険しい顔をしたザクトに、リュシカは青ざめた顔でぽつりと呟いた。ジェスカが一人で相手しているのがホワイトストームかもしれない、と。





「はっ、良い眺めだな」
「良く喋る口だ。とても暗殺者とは思えない」
「そんなの勝手なイメージにすぎない。違うか?」
「それに、お前が無傷だとは思えぬがな」

あちこちに傷を作り、所々服は破れている中未だ戦い続けるジェスカの前の男もまた、あちこちに傷があり血が床に所々落ちている。けれど体格差、実力差は明らかで現役を退いてから数年でこんなにも鈍るものかと奥歯をかみ締めた。正直なところ、ジェスカの限界は近かった。血を流しすぎた、と気力で立っているのがやっとでこうして口を開いていることで精一杯だった。

「俺相手によくやったと思う。けど、俺も限界があるのでそろそろ終わらせて貰うぞ」
「っ」

これで最後か。皆は無事だろうか、と真っ直ぐに相手を見つめ思う。それでも視界は揺れ、上手く焦点が定まらない。
剣が弾かれ、迫り来る刃に覚悟を決める。

「ジェスカ!」
「ぐぁっ」

痛みと死を覚悟した次の瞬間、目の前にあったのは心臓を一突きし、引き抜いているザクトの姿だった。その手は相手の剣を握っており血が滴り落ちている。聞こえてきた鈍い声がホワイトストームの物だと理解するのに時間が掛かり、現状を理解するのにも更に時間が掛かった。

「ザクト様ッ。どうして、何をッ」
「俺は大丈夫だ」
「無茶をなさってっ。ギア、ザクト様の手当てを至急。私とノールはジェスカを運び、治療をします」

手際よく手配するリュシカに私は大丈夫です、と立ち上がろうとしたところでジェスカは意識を失った。






「ジェスカ」
「……リュシカ様。私は。っ、ザクト様はッ」
「落ち着きなさい。貴女はあの後すぐ意識を失ったの。出血が酷かったし、危なかったのよ?ザクト様は手の怪我だけで幸い元気よ。そろそろ生きる覚悟を決めたら?」

孤児院からザッシュが引き取ったジェスカを指導し、面倒を見たのはリュシカだった。飲み込みが早かったのでそれほど苦労はしなかったが、礼儀作法やルール、何より王城に慣れさせるのには多少なりとも苦労した。だからこそ、暗部に入ってからジェスカが死ぬ覚悟をしていることを知っている。それゆえの重みが言葉にあった。

「リュシカ様」
「大事なことよ。……ほら、来客が来たわ」
「ジェスカッ」

小さな子に諭すように言うリュシカを困った顔で見ているジェスカの葛藤をよそに病室に飛び込んできたのはやはりと言うべきか、ザクトだった。手には痛々しく包帯が巻かれているものの、ジェスカのそれに比べればたいしたことはなく。

「ザクト様」
「大丈夫なのか?生きてて、良かった……っ」
「私なんかより、ザクト様のお怪我の方が」
「俺は大丈夫だ。余計な心配をかけた、忘れてくれ。俺よりもジェスカの方が全然重症じゃないか」

そっと労わるように優しくジェスカの肩に手を置くザクトにジェスカは苦しくなって思わず目を背けた。いつの間にかリュシカはいず、室内はザクトとジェスカの二人きりになっていた。勿論、外に護衛はいるのだろうが、それでも今この空気はジェスカには重く泣き出しそうになる。

「どうして、どうして私を庇うような真似をっ、どうしてあんな無茶をなさるのですか……ッ」

悲痛な叫びにザクトはその頭を抱き寄せ、傷に差し支えない程度に優しく背中を叩いた。ザクトにとっては手の傷などどうでもよく、ただジェスカのことだけが心配で勝手に体が動いていたに他ならないのだから何もいえない。ただ。

「ただお前を守りたかった。お前は守りたい、と言うだろうけど俺だって守りたいんだ。だから、どうか命に代えてでも守る、なんて考えないでくれ。気が狂いそうになる」

あまりにも寂しそうに笑うものだからジェスカは小さく頷いてしまった。これが生きる覚悟、と言うものか。何て重く、そして何て嬉しいものなのだろうと。それはジェスカにとってまったく新しい感覚であり、感情だった。今まで生きる覚悟を放棄すると同時に色々なことから逃げていたように思えるほど。だから、このときばかりは素直に言えた、誓えた。

「ユミルも心配してる。呼んでこよう」
「ザクト様」
「どうした?」
「ありがとうございます」

貴方を生きて守り抜いて見せます。最後は言葉にせず、ただ今までにないほど柔らかい笑みで礼を述べるジェスカにザクトは不思議そうに名を呼ばれるまで動くことが出来なかった。





主従関係で主の片思い5題
「余計な心配をかけたな。忘れてくれ。
「どうしてこんな無茶をなさるのですか

 確かに恋だった様より拝借
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