変わることのない世界で

小さな物語の断片
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契約破棄 C
隣国ストナの王であるゼノンが第一王子で王位継承者のゼスト、そして王子つきの護衛であるシュマを連れて王室を訪れたのは昼過ぎのことだった。謁見、会議が終わりゼストとシュマの案内を任されたのはジェスカだった。本来はザクトとユミルが案内するはずだったのだが、ユミルに急な謁見が入ってしまった為ジェスカが借り出されたわけだ。だからこそ、思いもしない事態が起きたわけだが。

「お二人は俺と彼女で案内させていただきます。生憎ユミルが出て来れなかったもので」

歳が近いせいか、ザクトとゼストの関係は良好で、言葉もある程度のフランクさがある。ジェスカは二人のやり取りを聞きながら柱から身を出した。

「ジェスカ=エミリアと申します。本日はよろしく――」

腰を折り、頭を上げたところでジェスカの動きが止まった。その目はゼストとシュマへ向いており、丸く見開かれている。

「……ゼス?それに、シュマ……?」
「ジェスカ?」
「え、本当にジェスカ?」

三人が顔を見合わせている中、ザクトはわけが分からずただ成り行きを見ているだけしか出来ずにいた。次に口を開いたのはゼストだった。

「いや、まさかこんなとこで会うとは……何年ぶりだ?」
「16年、か……ですね」
「敬語ヤダ。迎賓命令?」
「……久しぶり。名前見た時まさかとは思ったけど、ほんとに“王子”だったんだ」
「お前失礼な奴だな……」
「ってかジェスカ暗部配属とか言ってなかったっけ?辞めたの?」
「王の計らいで、ね。シュマとは12年ぶりくらい?あのまんまでかくなった?」
「お前なぁ……。っと、ゼスト。ザクト様に説明した方がいいんじゃねぇの?」
「……シュマ、俺一応お前の主なんだけど。まあいいや。彼女が孤児院出なのはご存知で?」

話の展開についていけずにただ見ているだけのザクトに気づいたのシュマで、シュマはおよそ主に対する言葉とは思えない言葉でゼストに説明するよう促す。それを咎めるでもなく、ただ呆れた声で嗜めるとゼストはザクトへと向き直った。頷いたザクトを見て話を進める。

「俺が生まれた時、国は戦争のせいか酷く荒れていましてね。命が危ぶまれたのか、俺は孤児院に預けられました。その時会ったのがジェスカとシュマです。俺は11になる前に反乱も落ち着いてきたのか迎えが来て。ジェスカとシュマは確か13までそこにいて、その後は知っての通りです」
「昔なじみ、幼馴染なんですよ。俺たち」
「2歳になる前に親を亡くしているので家族に近いものです」

ゼスト、シュマ、そしてジェスカに口々に言われ、ザクトは何とも言えない気持ちで納得した。楽しそうな、嬉しそうなそんな見たこともないようなジェスカの表情に感情を酷く乱されていることは間違いない。

「しっかし、泣き虫のジェスカが暗部入りってのも相当な衝撃だったけど今度はメイド?どういう風の吹き回し?」
「シュマ、うるさい。そもそもシュマだってゼスの護衛?ゼスにだけは絶対従わない、とか馬鹿なこと言ってたの誰だっけ」
「間違いなくこの馬鹿だ」
「いつの話だよ!ってかゼストもなんだ、馬鹿って。ザクト王子、こいつきちんと“メイド”してるんですか?物壊したり、夜中に怖いからって夜這いかけられたりしてません?」
「ゼス、この馬鹿解雇しちゃっていいんじゃない?」
「んー、そんな馬鹿でも一応強い方だし、何よりこき使えるし」
「え、そんな理由?っと、ところでザクト王子、今日はユミル王女は一緒では」
「あ、ああ。ユミルはすぐ来るかと。婚礼の儀も兼ねてますからね」
「婚礼の儀……?まさか、ユミル様のお相手、って」
「俺だ」

表情をころころ変えるジェスカに目を奪われている時にいきなり話を振られ、ザクトは焦るもなんなく答えた。滅多に見られないジェスカの表情と雰囲気に歯痒い思いと悔しさに似た感情が沸きあがってきてそれを抑えるのに必死だった。

「……ここになりますね。こちらがシュマ殿のお部屋になります。ゼスト王子には少し離れてはおりますが、ユミルの部屋の近くに部屋を用意しておりますので。何か不自由があればお申し付け下さい」
「ありがとうございます。じゃあ後はジェスカよろしく」
「は?……分かりました。ザクト様、ゼスト王子をよろしくお願いします」





「ザクト王子はジェスカのこと、好きなんですか?」
「そう見えましたか?」

ゼストを部屋に案内している途中、唐突に聞かれ微笑みで返すもその様子にはいつもの余裕は見受けられない。言い逃れを許さない目で真っ直ぐ見てくるゼストにザクトは苦笑混じりに問いに肯定の意を示した。

「彼も、好きなんですか?ジェスカのこと」
「なんでそう思います?」
「勘と、後は時折俺を見る目がとても鋭いものでしたから」
「あいつ……すみません。悪気はないと思います、多分」

何度か会ったことがある程度だったが、ザクトはゼストといる時の空気が嫌いではなかった。責任感があり、地に足がしっかりとついている。ユミルの相手としても、ストナの次期国王としても大丈夫だろうと思わせる雰囲気がゼストからは感じられた。それはゼストも同じようで、ゼストの立場抜きにしてもザクトは好感が持てる相手だった。芯のある強さと人として信頼の置ける器。ジェスカがロージスに引き取られたと聞いた時から心配ではあったが大丈夫だ、と思わせる部分がザクトにはあった。

「いえ。正直、羨ましいですよ。あれだけ感情を表に出して貰えると言うのは。俺は避けられていますから」
「避ける?ジェスカが?」
「ええ。この前なんか立場を考えてくれ、と困らせてしまいましたよ」

ザクトの受け答えにゼストは意味ありげに微笑んでそうですか、と呟くと言及を許さない表情と声音で告げた。

「今晩、テラスにてお話があるのですがよろしいですか?」
「テラス、ですか?」
「ええ。式典の途中に少し生き抜きも兼ねて。どうでしょう?」
「構いませんよ。何時ごろ?」
「では私たちの挨拶が終わってから半刻ほど後で如何でしょう?」
「分かりました。では後ほど」




「シュマ?」
「ほんと、鈍いっつーか、こう言うとこで無防備なの変わんねぇのな」

案内した部屋の中で目の前にシュマ、後ろに壁と言う状況下でジェスカはただ不思議そうに訊ねた。シュマは呆れた声音で言うと近かった距離を更に縮める。分かっていてなのか、本当に分かっていないのか、ジェスカの表情はあまり変わらない。

「その無表情、暗部時代に培ったのか?……ジェスカ、俺のもんになれよ」
「冗談、にしては性質が悪いね」
「冗談のつもりはないし、ザクト王子に渡す気もない。例えお前があっちを好きでも、な」

段々近づいていく距離とシュマの言葉にジェスカはらしくもなくパニックに陥りかけていた。シュマの告白に、ザクトに対するジェスカの気持ちを見透かされていると言う事実。もうすぐ距離はゼロ――その瞬間、扉の開く音がし、更にその音によって完全にパニックに陥ったジェスカの拳が綺麗にシュマの腹部に決まった。

「…………あんまり心配要らなかった、か?」
「ゼ、ゼ、ゼスっ」
「全く。強引に行こうとするからいけないんだって。元国の精鋭部隊――暗部に属してたんだから保身くらい出来るに決まってるのに」

ジェスカの背中を叩き、落ち着かせながら勝手に部屋に入ってきたゼストは酷く呆れた目で痛みに蹲っているシュマを一瞥した。

「ジェスカ、今日話があるんだけど式典中テラスに出てこれる?」
「え?大丈夫だと思うけど、いつ?ってか主賓がいいわけ?」
「生き抜きも必要だろ?俺たちの挨拶が終わって半刻したくらいかな」
「分かった」

蹲るシュマをその場に残して、ゼストはジェスカを連れて部屋を出て行った。




普段より着飾ったユミルとゼストが壇上に上がるとどこからともなく歓声が上がった。感嘆の声も上がり、それほどまでにユミルとゼストは美しく、またお似合いだった。普段のやんちゃさは鳴りを潜めていて、どこからどう見ても立派な淑女と紳士だった。挨拶が終わり、他国の上層部などと軽やかに言葉を交わしているところを見ていると別人のようだ。

「まるで別人みたいだな」
「本当に。でも少し寂しいかも。ユミル様、ゼスト王子に取られたみたいで」

壁際で待機しながら、ジェスカはシュマと本当に小さな声で話していた。それでも、誰かに万一聞かれても焦らないように、と呼び方だけは気をつけている。

「来ればいいんじゃねぇの?ストナ<うち>に。そうすれば俺も口説きやすいし?」
「そういうわけにも行かないでしょ」

溜め息交じりに返すジェスカの格好はいつものメイドの格好とは違い、いつものそれより上等な物だと一目で分かるものだった。と言うのも、今回はユミルの護衛も兼ねているからだった。ジェスカとリュシカ、それとあと数名、会場の護衛に当たっている。

「しかし、今日は随分綺麗にしてるんだな」
「場が場だから。っと、ごめん。一旦抜ける」
「ゼスト?」
「そ。一緒に出て行っても不自然だし」
「仕事はいいのか?」
「リュシカ様に言ってあるから」

ゼストの目論見に気づいているシュマは面白くなさそうにその後姿を見送った。本当なら着いていきたいが、ゼストの護衛としてそれは許されないし周りの信用を失いかねないので何とかその場に踏み止まる。ジェスカが見えなくなるとその視線を今度はゼストとザクトの方にやる。

「ザクト王子、この前言っていたあれ、是非お目にかかりたいのですが」
「あれ、ですか?」
「ええ」

突然のことゼストの言葉に身に覚えのないザクトは一瞬焦るも、ゼストの目線が出て行ったジェスカを追っているのに気づき気を利かせてくれているのだと瞬時に理解し、表情を和らげた。

「ああ、あれですか」
「あら、でもお兄様随分と大切になさってるからすぐには出せないんじゃなくて?」
「そうですね、お待ちしていただくことになりますがよろしいですか?宴もまだ始まったばかりですし、取りに行っている間ごゆるりとお楽しみ頂ければ」
「お心遣い感謝します。わざわざすみません、我儘言って」
「いえ。これから妹が迷惑をかけると思いますけどよろしくお願いします」
「酷いわ、お兄様ったら」
「では、また後ほど」

傍から聞いていれば違和感など感じない、それこそゼストの目論見を知るシュマとザクトをよく知るザッシュぐらいしか違和感を感じないだろうやり取りの後、ザクトは何の焦りも戸惑いも見せず優雅に会場を出て行った。リュシカには目で追うなと伝えている辺り、本気なことが伺える。その様子を見て内心舌打ちをし、自分の気分を紛らわすようにシュマは近くの水を口にした。





「ゼス、抜けられないのかな……」

中々来ないゼストにジェスカは退屈そうに手すりに体重を預ける。下を覗き込めば見事な庭園が広がっていて今更ながら自分の立場と言うものを思い知らされるようで目を瞑った。その時、人の気配を感じ振り返ると丁度テラスに出てくるザクトの姿があった。

「ジェスカ」
「……どうして、ザクト様が?」
「ゼスト王子が気を利かせてくれた」
「ゼスの奴……」

小さく漏らしたジェスカにいつもと雰囲気が違うせいか、ザクトは我慢ならずその体を引き寄せた。それには流石のジェスカも驚いたらしく必死に離れようとする。しかし、ザクトの力は予想以上に強く中々離れてはくれない。

「ザクト様、このようなところ、誰かに見られたら……ッ」
「――俺の、俺の知らないジェスカばかりで怖くなった」

耳元で囁かれ脳にダイレクトに届く声に甘さを感じながら、必死でそれを振り払い何とか冷静さを保とうとするジェスカの心を知る由もなく、ザクトはそっとジェスカを離すと真っ直ぐに問いかける。

「ゼスト王子たちの前ではあんなに表情を変えるのに。お前にとって俺は単に『主』にすぎないのか?」

それは多分、すべての可能性を打ち消す問いかけであり、ジェスカに避けられていると信じて疑わないザクトにとっては最大の賭けでもあった。ここではっきりと拒絶の言葉を紡がれたならきっぱり諦めて他の縁談を受けようと決めていた。ザクトの何かしらの覚悟を悟ったのか、ジェスカは離されても逃げず、また逃げられずにいた。ザクトの問いかけに、ユミルに言われた言葉が頭の中で思い出される。

『自分に嘘だけは吐かないで』

だから慎重に言葉を選んで答える。

「ゼスとシュマは私にとっては王子である前に幼馴染です。一人の人間として出会い、幼馴染として長く過ごした後に王子となった。けど、貴方は。私にとって一人の人間である前に『主』なのです。『主』でなければいけないのです。『主』として見れなくなったらそれは私が仕事を失う、と言うことになります」
「仕事を失う?何故」
「それはご自分でお考え下さい。――失礼します」

言うだけ言うと、ジェスカは一言言い置き、テラスから出て行った。その意味を何となく理解するも、深い意味があるのかないのか計り兼ねてザクトは頭を悩ませた。
少しして、遅いザクトを探しに来たユミルに小言を言われるもザクトの頭には入って来ず、ひたすらその真意を探していた。




主従関係で主の片思い5題
「お前にとって私は単に「主」にすぎないのか?
「私にとって一人の人間である前に「主」なのです

 確かに恋だった様より拝借
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