変わることのない世界で

小さな物語の断片
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僕と私 ε
騙して騙されないようにして、そうして自己を保ってきた。終わりに近づくことで何かが解れようとも、支障を来たさなければ気にしないつもりだった。終わってしまえばどうでもよくなる、そう高を括りすぎていたのかもしれない。油断した、油断しすぎていた。

卒業式まで後残り一週間を切っている、と言うのに。

「蓮お嬢様、おいたが過ぎますよ」
「っ、は。なーにが“おいた”だ。どうせ親父の差し金だろう?それとも妹尾?お前に命令するのはどっちかだもんな、大河原」
「さあ。自分の立場がまだお分かりになられていないようだ」

手首にかかる圧力がより一層増して嫌な痛みを訴えてくる。手首を捻りあげられ、押し倒されてる様は傍から見たら強姦されているように見える。こんな手練な強姦魔なんて嫌過ぎるけれど。式前で六時頃となっちゃ学校はほぼ無人で、邪魔者もいなければ保護者と言えば難なく入れるのだから好都合なのだろうが。

「立場?俺は俺だ。それ以外の立場を自ら望んで欲した覚えはねぇな」
「まあ、今の状態はそうでしょうね」
「ぐっ」

鳩尾に容赦ない一発。呻いても表情を一切変えない辺り流石、と言うべきか。そもそも女の腹を思い切り殴るってどうなのよ、まあ今は男だけど。痛む腹を極力気にしないようにしながら周りに気を配る。
気配はない――いや、一つ近づく気配がある。うっすらと、だけど良く知っている気配。

「蓮ー」

がらりと扉を開け、入ってきた高槻に大河原も平静を装っているものの驚いたようで一瞬気が途切れ、手首を押さえる力が弱まった。その隙を突いて、思い切りその腹を蹴り上げる。しかし、執念か、手は完全に外れない。

「くそ」
「……ご学友ですか?」
「お前には関係ない」
「ああ、賭けの最中ですものね。貴女が、友人など作るはずはない、さしずめ“駒”ですか?」
「よく喋る口だな」

駒だ、最後に友好が解れようが問題ない。駒だと自分で決めた、それ以上の感情などないと自分で決めたはずだ。なのに、何故こんなにも感情が乱れるのか、平静が揺らぐのか。
“駒”だと言ったことに対して起こる面倒ごとへの苛立ちと大河原は取ったのだろう、嫌らしく笑う。

「がっ」

嫌になり殴ろって気絶させようと腕を上げたのと同時、高槻が大河原の脳天に肘を落としているのが目に入った。簡単に崩れ落ちる大河原に何が起きたのか分からずにいると腕を掴まれた。

「蓮、行くぞ」

最早空に近い鞄を引っ掴み、教室を飛び出す。教師も少ないので全速力で走っても幸い、咎める人間はいない。全速力で俺は高槻に半ば引っ張られるようにして駆け抜ける。そうだ、あと少しなんだ、こんなとこで捕まってたまるか。
階段を飛び降り、校舎を飛び出て、校門をくぐり抜ける。電車に飛び乗り、少しして降りたところで漸く自分がいつも使っている駅でないことに気づく。どれだけ焦っていたんだ、と脱力する。

「蓮」
「たかつき」
「利用してくれていいから。俺如きで蓮の欲しいもんが手に入るなら駒でかまわねぇから」

一瞬、何を言われたのか分からなかったがそれがさっきの大河原の言葉のことを言ってるのだと理解し、高槻を凝視した。何を言ってるんだ、と頭が瞬時に真っ白になった。怒るとか、責める、とかなら分かる。或いは脅す、逆上するなら分かる。なのに、高槻は何て言った?怒るでも対価を求めるでもなく、利用してくれて、駒で構わない?

「お前、馬鹿か?何言ってるか分かってんの?」
「分かってるし、馬鹿なのは蓮だろ?お前、さっきアイツが俺のこと駒、って言った時自分がどんな顔したか分かってる?」
「苛立った顔してたんじゃねーの?」

事実、そうだと思ってた。それ以外ありえない、と。大河原の反応からしても。なのに、高槻はまったく別のことを言った。

「違う。苦しそうな、泣きそうな顔してた。最初の時、利用させてもらうって言ったのは蓮の方だぜ?覚えてねぇ?」

そう言われると同時に抱きしめられ、その温もりに反発するどころか酷く安心している自分がいることに気づき、あまりの情けなさに泣きそうになった。
離れるのが、嫌われるのが怖かった?
いつでも離れられるようにと思ってた。嫌われる覚悟なんて、とうに出来ていると思っていた。それなのに恐れていた、なんて笑える。

「それでも、おかしい。駒で構わない、なんて。何の見返りもなしに」
「見返りなしに?そういうわけじゃねぇけど……じゃあ、今貰ってもいい?」

は?と不思議に思っているうちに距離が縮まり、唇に暖かい感触。何が何だか分からずにいるともう一度。

「キス。これが対価、っつーことで」
「なっ、何やって、ってか何言って、いや、何を」
「ははっ、そんなに感情むき出しの蓮はじめて見た」

混乱している私をよそに、高槻は綺麗に笑う。初めて見た笑顔などとは比にならないくらいに綺麗にそれこそ感情むき出しの楽しそうな安心する笑顔を浮かべていた。
漸く落ち着いて来た頃に続けてまたも爆弾を落としてくれる。

「なあ、蓮。卒業するまで家に来ねぇ?そっちの方が何かと安全だろ?」
「……は?高槻、お前何言ってるか分かってる?」
「分かってるっつーの。卒業するまで何かと仕掛けてくるだろ。なら家の方がいいじゃん。一般人巻き込むわけにも向こうもいかねぇだろうし」
「まあ、確かに。でも」
「いーって。それに、一週間一緒にいれば口説けるし」

続けざまの爆弾は思考回路を停止させるには十分すぎるほどで、固まっていると手を引っ張られた。くすくすと楽しそうに笑っている高槻を見ているとどうにでもなりそうな気がしてくるから不思議だ。
それでも卒業式まではまだ日があるから染谷蓮のままで頑張ろうといやに気力が出てきて手を振り解き高槻の背中を思い切り叩いて笑いかける。
この暖かい感情は大貫蓮に戻れるその日まで取っておきたい。

「じゃあ、世話になる。俺大食いだけど、いい?」
「――別に大丈夫だろ。卒業したら覚悟しとけよ」
「お前こそ」

後日、俺の家にやはりと言うべきか、親父からの刺客が仕向けられていたと貴ちゃんから聞きほっと胸を撫で下ろした。
あと5日間。親父の悔しがる顔と高槻の驚く顔を見ることだけを楽しみに気合を入れた。


 


上に立つ人へ・五題
嫌われる覚悟
 リライト様より拝借

**************************
急展開すぎますよね、分かります。結論
5掌編で書くには設定をしっかり作りすぎた
司と拓馬の接点とか。拓馬は性悪だけど一途です
まあ、相手は蓮ではないんだけれどw

次は頑張ります←
でも個人的に不器用な女の子大好き。親近感沸くから←

司は天然で、でもきちんと引っ張ってくれる、そんな男の子だといいなあ
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