変わることのない世界で

小さな物語の断片
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Forgotten a memorial day
※stigma:



その日に特別な思いなどなかった。ただここに存在し始めた日と言うだけで、ただ生まれたってだけじゃねぇか、そう思ってた。物心がつく頃は純粋に嬉しかったのかもしれないが、あの日以来、生まれたことを喜べなくなっていた。生まれたことを後悔してるわけじゃなったが、早い段階から仕方ないと諦めていた節があったのも事実だ。子どもの頃だってそう執着していず、忘れずにいたのは毎回頼んでもいないのにアイツが祝ってくれた――あれが素直に喜べる祝い方だったかどうかは別としても覚えていてくれた――からで、政府に入ってからはそれどころじゃなく、特にここ数年はそんな日があることすら忘れた。
それでも、そう呼べる日があるだけでも恵まれていたのだけど、あの中では。

「よく覚えてたな」
「別に覚えてたわけじゃねぇよ。アイツがわざわざ呼び出したりしなけりゃ俺だって忘れてたさ」
「覚えて貰えてるだけいいだろ」
「ま、そうだろうな。……“等星”あたり覚えてそうだけどな」

等星なら、あの無駄に良い記憶力なら間違いなく覚えてそうだ、と思い抜け出た配意がデータは全てあの頭の中に入ってるのかと思うと何だか複雑な気分になる。
リロイは自分の誕生日を覚えてないって言うし。

「ノアもいるんだろ?」
「いるから来たんじゃねぇのかよ。あの二人が何してるのか考えたくねぇけどな」

例の如く、素直には喜べないのだろうけれど悪い気はしない。無邪気に喜べるような年でもないけれど。

「スティー、油断はするなよ」
「分かってる。そこまで浮かれねーよ。それに、お前を巻き込むようなヘマを俺がするとでも?」

何年お前のパートナー務めてると思ってんだ、と言いたい。俺がそんな馬鹿をするとでも思ってるのだろうか――思ってないだろう、念を押してるだけだ。
でも、今日ばかりは。

「外の敵より、内の敵だな」
「――は?」
「来れば分かる」

パーティー、と言うよりゲームみたいなもんだ。ソレも多分、今回は命がけの。
政府にいたんだから、と恐らく手加減なしだろう。してほしくはあるが無理な相談だ、アイツ相手に。
数年分のつけが一気に回ってくると考えていいはずだ。……考えただけでぞっとする。

「政府に入ったことがばれた年――八年前は下剤入りのクッキーと普通の青汁。まあ、それでも護身用の魔石を同封してたあたりレナらしいけど」
「レナが九歳の時か。カジャの血筋、だろうな」
「ああ、そう、だな……」

血は争えない。数年間騙してた分、少しぐらいの嫌がらせは甘受しようと思ってる。
少しぐらい、は。

「待たせるとグレードアップしそうだから急ぐか」
「勝手にしろ」



その数時間後、俺が本当に血を見る羽目になったのは想像に難くないだろう。


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強運、悪運、運命
※stigma:



晴れ渡った空には雲一つ見当たらず、遮るものがないまま陽光は容赦なく地上へと降り注いでいた。その陽光は彼の髪に当たりその金糸をきらきらと反射して輝かせている。
陽光は容赦ないが、吹き抜ける風が冷たいせいか彼の顔には疲れや暑さと言ったものは一切見えない。
長い前髪の合間から見える深い蒼はまっすぐで、吸い込まれそうになるほどだ。
前までは弟たちが祝ってくれていたこの日も今となってはひとりきりで過ごすしかない、それも身を隠しながら。

「一人で月見ながらの誕生日、か」

自嘲気味に笑うもその顔は諦めているのではなく、寧ろ生き生きとしているように思えた。絶望しているわけではなく、窮地に立たされるもそれを楽しむ余裕はまだ十分にあるらしく活路を見出しているようだった。

「……今から女の子探すのもなぁ」

追われている者らしいとは到底思えない台詞だったが、それは彼らしいと言えばらしい台詞だ。この世に生まれたことが間違いだと、彼は一度も思ったことはなかった。
たとえ今追われる身だとしても。
彼は所謂S級賞金首、上から三番目の賞金首だと言うのに生まれたことを悔いたことは一度もなかった。
自らの手が汚れようとも、生まれてきたことに感謝はすれど恨んだことはない。

「――あれ、同業者?」

と、隣の木を見てみれば男と女の二人組が夜闇に紛れるように移動していた。その手には恐らくは盗って来ただろう物品が。

「まあ、そんなところだな」
「あら、男前」
「おい。……で、あんたは月見?」
「いや、今日誕生日なんだけど振られちゃってさ」

軽く言えば、すれ違っただけの二人組は少し怪訝な顔をした後にそれでも笑って言った。

「そうなのか、おめでとさん。そのうちいいことあるさ」
「おめでとう。きっとそのうちまた出会いがあるわよ」

思わぬ祝辞に、彼は目を丸くしてその後破顔した。

「サンキュ」

月光が照らす中で別れ、彼はもう一度上を向いた。
美しく輝く月に不敵に微笑んで飛ぶ。

「星の導くままに」



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昔の記憶
※古の王都:微ネタバレ



悪夢に魘され、飛び起きれば体中汗だくで嫌に鼓動が早かった。たかが夢ごときにこうも乱されるとは弱いな、と自嘲しながらカーテンを開け、外を見てみた。
うっすらと出ている月が雲を通して地上へ光を送る、そのぼやけた光にどうしようもなく苛立ちを覚えた。―原因は分かっている、あいつを彷彿とさせるからだ。



「ヴィル、僕はね馬鹿な奴が嫌いだよ」
「何度も聞いた、知ってる」
「ヴィルは賢いから好きだよ。僕の言葉をすぐ理解してくれる」
「そりゃどーも」

雲に隠れたぼやけた月のような艶やかな銀髪に、その瞳はこれ以上なく淀んだ赤をしていた。
俺より五つ上の従兄はそう言って俺に無邪気に笑いかけた。その笑みは口にしている言葉とその目には酷く不釣合いなほど無邪気で、逆に寒気を覚えた。
ジェイド、と年上にもかかわらず俺は呼び捨てにして呼んでいた。
ジェイドは歪んでいた。愛情表現も、自己表現もそのすべてが歪んでいたように思う。

「僕が頭だったら叔父さんよりもっと上手くイーラを動かすのに」
「親父は別に何も望んじゃいないからな」
「違うよ、叔父さんは下手なんだよ。あれじゃあ全ては手に入らない」

そう言うジェイドの口元は歪んでいて、それにいやな予感を覚えた。後になってそれは的中するのだが。

「ねぇ、ヴィル。ヴィルは僕を失望させないでね?もっと、上手く動かしてね」
「俺はイーラに興味なんかねぇよ」
「それでも、次の頭はヴィルになる。その時は」
「まだ先のことだろ」
「そう、だね」

あの時のジェイドの言葉はどこか含みがあった。俺はそれに気づきながらもどこかで恐怖を覚えてそれ以上深いことは聞けなかった。
歪んでいた、狂っていた。
俺はそれ以上何も聞けなかった。



「それでも、同じ血が流れてる…か」

俺は、次に会った時ジェイドを殺せるのだろうか。
殺さなければ、逆に殺られる。それは根拠のない確信。
迷ってる暇はないのだ。

その時は僕を退屈させないでよ?

頭の中で声が響いた。


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dark of the sky
※stigma:微ネタバレ



「情けねぇな……」

こんな日はいつも思い出す。雷鳴の変わりに轟く銃声、雨と共に流れ出る赤、雨音と共に聞こえるうめき声。

忘れられない、あの雨の日。

いつまでも俺の脳裏から消えてはくれない。



「スカーの生き残り、か」
「……」
「お前が来るならあの少女は生かしておいてやろう」
「てめぇ…誰だ」
「どうする?二人して死ぬか、私について来て生き残るか」



初めから残されてなどいなかった選択肢、アイツの勝ち誇ったような顔。あの日俺はあいつの手を取った。

―生き、生かすために。

目の奥に焼きついた赤と激しい雨音、消えない罪。
豪雨は嫌でもあの日の記憶を呼び覚ます、罪の意識を呼び起こさせる。
俺はあの日、一族の誇りよりも何よりも自身の明日を取ったんだ、それは間違いない変えようのない事実。裏切りにも当たる行為だ。
幸せになる権利を、普通の日々をあの日手放したのだから―生きる、為に。
今更なんだ、本当に。あの日手放したものはあまりにも多すぎて、だから力がついた頃を見計らってあそこを抜け出したんだ、俺は。

「本当にくだらねぇ」

今更それを望むなんて、馬鹿げてる。あそこで長い間過ごしてそんな感性は薄れ、とっくに無くなったと思っていたのに結局は忘れずに残っていたと言うことか……。
多くのものに深く関わりすぎたのかもしれない。
大切な幼馴染、長年の相棒、星見の男、物語を廻す少女、物語を紡ぐ男、運命を曲げようとする男、赤い瞳を持つ凶星、底知れぬ雰囲気を纏う紫闇。

それでも自分の手で選べたのか?

本当に、自分で選び取ったものだったのか。

「そんなのわかんねぇよ……」

空は相変わらずの雨。俺は相変わらずの雨。
激しすぎる雨音は消えることを知らない。



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